ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

スタンリイ・エリン「特別料理」

 

特別料理 (異色作家短篇集)

特別料理 (異色作家短篇集)

 

 「ぜんぶ本のはなし」で取り上げられていた*1ので興味をもって手に取ってみる。表題作は古典の名作ではあるのだけれど、近年の日本では米澤穂信のオマージュ作品の方が知られているのだろうというか自分もそっち*2を先に読んだのだけれど(笑)

そんなわけであらかじめオチまで全部知って読んだからインパクト自体はそれほど強いものではなかったけれど、これがミステリ史上に残る傑作で現在に至るまで多くのフォロワーを産み出したことはよくわかりました。そして巻末の解説(山本一力による)で、この作品は「倒叙法」ミステリーなのだという指摘を見てなるほどなーと唸らせられる。オチがすべてでは決して無く、むしろ読者の予想通りの結末へと向けて、いかに緊張感を以って作品を構築しているかが魅力なのだというわけですね、そういうふうに出来ている。

そしてむしろ予備知識なく読んだ他の収録作品もクラシカルながら決して古びず、上品なスリルとサスペンスを味わえる逸品ぞろいでした。個人的には「お先棒かつぎ」の、考えてみればこれも一風変わった倒叙ミステリと言えなくもないのだけれど、意外性と緊張感の盛り上げかた、ラストの何とも言えない余韻が良かった。「奇妙な味わい」とはまさにこういう物を言うのだなあ。前に「いい加減別の名前を付けたほうが良い」みたいなことを書いた覚えがある*3けれど、やはり他に言い換えられるものでもないか。

 

ヒッチコック、そうヒッチコック的なんでしょうね。「ヒッチコック劇場」のような上質の恐怖と、決してグロテスクにはならない人死にと、そういうものだな……