増補 普通の人びと: ホロコーストと第101警察予備大隊 (ちくま学芸文庫 (フ-42-1))
- 作者: クリストファー・R・ブラウニング,谷喬夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2019/05/10
- メディア: 文庫
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重いなあ…。たいへん重要で貴重な内容、興味深いところであるけれども、ではすいすいページをめくれていくかというとそうでもない。第101警察予備大隊という、ナチスドイツの軍事組織でもは補助的な位置を占めるに過ぎず、最前線で勤務するには相応しくない中年の兵士たちが主体となった集団が、ドイツ占領地のポーランドでどれほどの大量射殺や強制収容所への移送、パルチザン追討としての「ユダヤ人狩り」などホロコーストに関与していたかを研究した物。当事者の証言と回想を主な研究材料としている。末尾にはいくつか当時の記録写真が掲載されていて、あまり画質は良くないが遺体のものもあるのでその点注意が必要です。
タイトルにもある通り普通の人びとの記録ではある。大量射殺というのは決して警察大隊の本義的任務ではない(簡単に言うと警察大隊というのは警察官出身の兵士で構成された占領地域の保安・治安維持を担当する部隊だ)ので、この種の任務がはじめて下令された際には反発する人間も多いし(なにしろ大隊長自身が意に沿わない者の離脱を即している)、実際外れる者もいる。しかしだんだんと人は「慣れてきて」躊躇うことなく虐殺行為を行っていくと、だいたいそういう内容です。初版刊行後に起きた論争と、後日刊行された同テーマの研究書(ダニエル・J・ゴールドハーゲン「普通のドイツ人とホロコースト」https://www.amazon.co.jp/dp/462303934X)に対する反駁を含めた増補版。著者の(そして翻訳者の)立場としては、悪魔じみた狂信者としてのナチではなく、ごく普通の人びとが状況に感化されて非人道的行為に携わっていくことを提示しているわけで、卑近な例だとアニメ版「アンネの日記」に出てきたドイツ兵やゲシュタポは普通の人だったから怖かったなってのを思い出したりだ。
「恥の文化は順応を最優先の徳とする」とあるように、任務を忌避するものや命令を受けるたびに発病する将校(いかにも詐病のようだがどうも実際に過度なストレスで発症していたらしい)が蔑視される一方で、積極的に過度な暴力行為を振るうものがやはり軽蔑されていたことはんー、まあどこの国も、どこの人も同じなんだろうなあと。世界はひとつで人類はみな兄弟だ。
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戦争という背景は、それが戦闘によって誘発された野蛮性や狂乱の原因であるというに止まらず、より一般的な観点からして重視されねばならない。戦争、すなわち「敵」と「わが国民」との間の争いは、二極化された世界を創造し、その中で、「敵」はたやすく具象化され、人間的義務を共有する世界から排除されてしまうのである。
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「戦争における『人殺し』の心理学」https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480088598/ とも共通する何かこう、なんだろうなあ、やっぱり世界はひとつで人類はみな兄弟だってことですかね。ヒューマニズム、ヒューマニティ…