- 作者: ピエールフライ,Pierre Frei,浅井晶子
- 出版社/メーカー: 長崎出版
- 発売日: 2010/01
- メディア: 単行本
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なにやら素人詩集のような叙情的なタイトルに、パルプ雑誌めいた扇情的な表紙絵。おまけに聞いたこともない作者&版元と、これは地雷原に飛び込んでいくことを覚悟せざるを得ない一冊――
などと思ったが、いやこれは結構面白かったですよ?
第二次大戦直後、連合軍による分割統治下のベルリン市内で起こる連続婦女暴行殺人事件を、未だ復興途上のドイツ警察警部と占領者たるアメリカ軍の担当者とが共同で捜査し、互いに反撥を抱きながらやがては奇妙な友情が芽生え…
とか、全然そんな話では無かった(笑)ストーリーの構図は確かにそのようなものだけれど、それだけでは別に真新しくは、無い。「第三の男」以来ナチスとミステリー小説はむしろ親しい関係で、戦後のみならず戦前戦中いろんな状況の下ドイツ社会では殺人事件が起き、警官は捜査をするものだ。*1
本書がユニークなところは事件が起き被害者が出る度に、その当該女性の物語が始まることだろう。当初の内はストーリーの主流を外れて傍流を巻き戻し時代を語り直す行為に戸惑ったのだけれども、やがて実はこちらの方が主流なのだと気づかされた。様々な社会階層に属するヒロインたちがどのような苦難を経てあの時代を生き抜いていったのかを語る物語なのだと、そういうふうに捉えればこれはつまり群像劇か。それぞれは短くまとめられながらもそれなりに波瀾万丈で、戦争に耐え、平和を迎え、喜びに溢れて新生活をスタートさせ、突然
…みんな死んじゃう・゚・(ノД`)
映画女優だったり看護婦だったり男爵令嬢だったり娼婦だったりする被害者の人生が活劇的に描写される反面、ミステリー要素を期待する向きにはちょっと厳しいかも知れない。話の構造上語りがブツ切りに成らざるを得ず、伏線の出し引きが若干唐突ではある、ような。戦後社会をしたたかに生きる少年の視点もどのような効果を上げているのかいささか判断に尽きかねる。警察の捜査車輌がオペルの木炭車で、自転車で出動したほうが余程便利だなどという、最貧ドイツ好きにはたまらないシーンもあるのだけれどw
不思議な内容の一冊だけれども楽しんで読めた。訳者は良い仕事をなされたようで、ドイツ関連(特に戦前時期のそれ)の人名や固有名詞に丁寧な訳注が付されている。往時の生活感が感じられてそれは実に好感触。故にソ連軍兵士の持つ自動小銃が「カラシニコフ」だったり湖畔で少女の纏う水着が「ビキニ」だったりするのは残念といえば残念…これは翻訳者ではなく著作者に帰す責任なのだろうなとは、思うのだが。
*1:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20060212とか。そこでも書いたけどフィリップ・カーのベルリン三部作はお気に入り。とりわけ「砕かれた夜」が良い