ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

フィリップ・カー「変わらざるもの」

 

 フィリップ・カーのベルリン三部作に続きがあって、しかも10年も前に翻訳が出ていたとは知らなかった。版元を変えているとはいえなんという失態。

今でこそいろいろ出ているナチスドイツ体制下ハードボイルドミステリーですが、90年代にベルリン三部作が新潮文庫から出たときはずいぶんと興奮して読んだものです。特に第2作「砕かれた夜」が大好きでこれはいまでも本棚にあるのですが、他はほとんどないよう忘れてましたね…。第三作「ベルリン・レクイエム」がタイトルとは裏腹に主な舞台がウィーンだったのは覚えてたけど、主人公グンターに奥さんがいたのはさっぱり忘れていた。

 

本書では序章こそ1937年の開戦直前のドイツ・パレスチナを舞台としていますが、主たる時代は1949年、終戦後のドイツ社会を舞台に戦犯の追跡や逃亡がテーマか。ダッハウで小さなホテルを営んでいたグンターが妻の死とともに探偵に復帰し、小さな事件を扱いながらだんだんと大きな陰謀に飲み込まれて行く…という流れ。反骨精神と正義感は存分にありながらどこか抜けたところもあって黒幕にいいように操られちゃうのは、前もそんな感じだった気がする。ブチ切れて私刑じみた制裁を実行するところも、たぶん前々からだ。だから「変わらざるもの」という邦題は秀逸で、”The One from The Other” という原題はもっとし秀逸である。例えどれほど時代や社会が変わっても、変わらないものが、受け継がれている。それはなんだろう?

 

今作のラストでグンターは結構とんでもないことになるんだけれど、次はどうなるんだろう。ていうかこの新シリーズ全5作なんだけど、どうも翻訳は3冊で止まったらしい…。

 

そうそう、旧三作のお約束、登場人物一覧には書かれていないスペシャル・ゲスト・ナチの登場が今回も健在で、そこは非常に楽しめましたw