偶々なんだけどこの本読む直前に、現代的なピーラー(皮むき器)というのは1947年にスイス人が発明したものだと知った。じゃあよくある「新兵がジャガイモの皮むき」を第二次世界大戦当時どうしてたのかって調べてみたらそりゃもちろん包丁でやってたんだけど、軍隊でというか米軍でジャガイモの皮むきというのは一種の「罰」として命じられる行為で、米軍内でコックの地位というのは若干低いものであったらしい*1。階級が低いというより立場が弱いという感じなのかな?ジャガイモの皮むき係をKP(キッチンパトロール/本書ではキッチンポリス)なるやや冗談じみた名前で呼んでいたと、ホントに偶々知って、それから読み始めたのはたぶん流れとしては良かったんだろうなあ。
初版刊行以来評判も良く、実際読んでみて面白かった。アメリカ陸軍第101空挺師団「スクリーミング・イーグルス」に所属する1人の兵士の目を通じて戦争の流れを追っていくというのは巻末参考文献のトップにあるように『バンド・オブ・ブラザース』のそれで、日本人でもこういう作品は確かに書けるものですね。「同志少女よ、敵を撃て」*2と同様というかこっちの方が先なんだけど、同じ内容を日本軍でやると同じ話にはならないし、同じ主題で書けないようにも思う。炊事兵を主役に日本軍で書いたら餓死と病死で終わってしまいそうだし(わらえない)。軍隊とミステリーというのも古処誠二など手掛けてる人も多く、案外親和性の高いものかも知れません。本書は連作短編の形式を取って「ノルマンディーの戦場で未使用の予備パラシュートを集める兵士」とか「消えた粉末卵3トン」みたいにちょっと「日常の謎」っぽいミステリーが展開されます。とはいえ事件が起こる現場はまるで日常ではないので、あからさまに不審な人物がいきなり死んだり、レギュラーメンバーだと思っていたキャラがいきなり死んだり、探偵役だと思っていたキャラがいきなり死んだりする(←ネタバレよくない)。「日常の謎系ミステリーには殺伐さが足りないなあ」などと不満を抱いてる人ならばむしろピッタリかもしれません(笑)。主人公のキッドことティムが空挺部隊のコックというちょっと変わった地位にいるちょっと変わった個性の持ち主だったのに、連戦に次ぐ連戦でだんだんと普通の兵士になっていく様は読みごたえのあるものでしょう。コックとはいえ空挺ですから普通に戦闘に従事し、なにしろ名に背負う101空挺ですから第二次大戦西ヨーロッパ戦域の有名な戦場が次々に舞台となって、数々の戦闘シーンも読ませるものです。キッドの一人称による語り口は、当時の様子や第二次世界大戦の推移にあまり詳しくない読者にも判りやすいものかと*3。事件はいろいろ起こるし嫌な奴も出てくるけれど、本当に悪いのはなにかと言えば、
それはたぶん戦争なんでしょうね。これはきっとそういうお話。
ところで第1章にはM1937野戦調理器というものが出てきます。ちょっと詳しい人ならWW2ドイツ軍や現代日本の自衛隊も使ってるような牽引式のフィールドキッチンを思い浮かべるかもしれないけれど、当時の米軍が使ってたのはこんな形式で、トラックの荷台に乗せて運搬/調理したり、現地で展開するものなんだな。1/35スケールのレジンキットもあります*4。
もう少し詳しい解説がこちらのブログにありました。本編にはそこまで深く係るものでもないけれど、個人的に興味があったのでリンク貼っておきます。
考えてみれば貴重なガソリンを調理に使えるというのは、それだけでも第二次世界大戦当時の米軍(連合軍)が持っている大変なアドバンテージなのですが、そのことを登場人物の誰も認識していないのはむしろ当然のことなんだろうなあ。なにしろ当然のことなので。
それで本文記述にある「蒸気機関車を思い出す」「伸びた煙突」っていったいどこに生えているのだ?これガソリンバーナーだもんなあ🤔🤔🤔
*1:https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20121225/446585/
*2:https://abogard.hatenadiary.jp/entry/2021/11/20/194549