- 作者: ヘンリイ・スレッサー,村上啓夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1978/01
- メディア: 文庫
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怪盗じゃなくて快盗だったんだなー。「最期の言葉」が存外に面白かったのでこちらも読んでみた。元々は70年代に訳出されたものだからか、早川での著者表記はヘンリイになってる。
基本的には記述者である「ぼく」――大抵の場合、職探しに汲々して素寒貧である――が5つ年上の従兄ルビイ・マーチンスン――真っ当な会社に勤務していて普通に稼いでいる――から、
・毎度毎度天才的な犯罪計画をもちかけられ、
・毎度毎度断りきれず、
・毎度毎度無茶な実行役を押し付けられ、
・毎度毎度結局は大失敗
・もう犯罪はこりごりだぁ
・ふりだしにもどる
を繰り返すシチュエーション・コメディ。シチュエーションは全てクライム(=犯罪)で、それが失敗に終わるから素直に楽しめる、なんともモラリスティックな。昔のアメリカ社会はどこか清貧思想に溢れてて、そういった要素も多い。濡れ手に粟は掴めないし、悪銭は身に付かない。それでも真っ当な会計士であるルビイ・マーチンスンは天才的な(と、本人は思っている)犯罪を思いつかずにはいられないし、「ぼく」もその手助けをやめられないもので。
見事宝石店から時価3千ドルはくだらないダイヤの指輪をかすめとるも、結局はそれを返送してしまい、本人達には少しも金が入らないで終わる「ルビイ・マーチンスンの婚約」が個人的お気に入り。
彼は口の中でなにかもぐもぐつぶやいたが、ぼくにはきこえなかった。もちろん、こんなことになったのも、みんなぼくのせいだった。が、ルビイはきっとそのことで、ぼくを責めはしないだろうと思った。この世の中には、世紀最大の犯罪者よりもずっとてごわい連中がいるのだ。
然り、然り。
ところで同時にミステリ・マガジンのウェストレイク追悼特集を読んでいたら現代では「クライム・コメディ」がもう全く姿を消してしまったとか、そのようなことが書かれていた。成る程最近のルパン三世がつまらないわけで巨悪を倒したりヒロインを救い出したりしなくていいから、きっちりクライムコメディ(犯罪喜劇)をやってほしいものだなーと、なんとなく思うわけだ*1