- 作者: 冲方丁
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/07/20
- メディア: 文庫
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いや、SFじゃないんですけれど。「すぺきゅれいてぃぶ・ふぃくしょん」ということでひとつ。
アンソロジーに収録された物などをのぞいて冲方丁の作品を、「冲方丁の本」を読むのは初めて。様々なタイプの話が入った短編集で「入門」的にもぴったりで面白かった。前々から評判はよいけどあまりの分厚さと映画化されて話題になりすぎて遠ざかってた「天地明察」をその原型となる短編「日本改暦事情」で読めたのはなんか得した気分だ(笑)数学を使って社会のアーキテクトを書き換える話にひどく興奮したのだけれど、これ(をベースにふくらませて)映画で見て面白いのかなーと、それはちょっと不思議になった。文字の力、文章の良さで魅せるような作品が多かったように思う。
表題作「OUT OF CONTROL」は急激な展開につれて文体までコントロールを失っていくような雰囲気が面白くって、ファフナーの例の台詞やマルドゥクシリーズのようなルビ使いまで紛れ込んできて個人的に抱いてた冲方丁のイメージってこんな話を書く人だよなーと思ったらこの作品の初出はユリイカの特集だそうで納得。
人間の代わりに働く道具が人間を不要にしていく「まあこ」や個人の情動がストレージに保存されている「箱」も実にSFですよすぺきゅれいてぃぶでありますよ。人間の創造物はすべて思弁的である、うむうむ。
自分自身に改造手術を施したサイボーグが人間社会と相容れずに破滅する「ディストピア」とか胎児の持つ可能性が母体を変容させていく「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」とかどれも面白いのですけれど、本書一番の白眉は冒頭の一編「スタンド・アウト」だと思うわけだ。異質の存在と遭遇しトラブルが発生した際に互いに共通する価値観を認識し、争いを避けて平和裏に収束させる。コミュニケーションって大切ですね、というお話。物をいうのはナイフと傘だ。北関東はおっかないところだ(何)