ゴリアテ ―ロリスと電磁兵器― (新ハヤカワ・SF・シリーズ)
- 作者: スコットウエスターフェルド,Scott Westerfeld,小林美幸
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/12/07
- メディア: 単行本
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「ダーウィニスト」と「クランカー」両勢力によるスチームパンク第一次大戦もの3部作、完結編。扉の1行からニヤニヤニヤニヤさせられて、末尾のページでニヤニヤニヤニヤさせられる。その点では実によい、そういうお話しなんだな。
それ以外の点では正直言って頭を抱えるところも多いかなと思う。「ロリスと電磁兵器」と副題が付されているけど、本編ではこのふたつの要素に特に関連はありません。前巻ほどじゃないにしろキャッチコピー優先の宣伝戦略がほの見えちゃうようで、どうもね。才知ロリスは面白いキャラクターで要所要所で登場人物の会話にツッコミを入れつつだんだん知性を増していく様が語られる…けれど、そのことは本編の展開に特に絡むことはなかった。一巻あたりだと戦争を回避するカギみたいなこと言われてなかったかなあ。逆に電磁兵器のほうは本書の中核、全地球規模で大気送電を可能としあらゆる都市を瞬時に攻撃可能な電磁場投射兵器「ゴリアテ」は開発者ニコラ・テスラとともに大活躍ですよ!「テスラー砲」って呼ぼうぜヤマトの諸君。
まあねえ、ニコラ・テスラってどんなユニバースでも報われないひとですけどねえ。
第一巻のあとがきより言われてきた、この世界の日本がどうなってるかようやく描かれました。主にカッパです。「ラーメン」はまあ、ご愛敬かなあ。ダーウィニストもクランカーも平和裏に共存できている社会というのはなんかよかった。豊田佐吉と御木本幸吉が出てきたところが象徴的で、大正時代の日本の繊維産業の位置づけとか、真珠養殖を世界で初めて成功させたのは日本人だったなーとか。後者はたしか田河水泡の「凸凹黒兵衛」に書いてあったんだよな。
日本オリジナルの表紙絵がやっぱ格好良いです。ランドルフ・ハーストと新聞(メディア全般)を利用した政治・外交アピールは本書のキモのひとつで、アレックが手に握る皇位継承詔勅とか、いろんな大事なことが表紙に投影されてる装丁はいいですねえ…