「歴史群像」誌連載のイラストエッセイを単行本化した物。刊行にあたって連載には無い「戦時下日本の事物画報」というサブタイトルが付されている。内容としては掲載順ではなく、「戦時下日本の事物画報」に沿った記事をセレクトして再構成したもので、「この世界の片隅に」であの時代の日常に興味を持った人ならば楽しく読めるものでしょう。このタイミングでの刊行は「便乗」なのかもしれないけれど、時流に乗ればこそ、届く瀬もあり。片淵須直監督だって以前は歴群別冊で記事書いていたのだし、片淵監督や小峰文三氏と同じ「実証」的なスタイルを、もっと日常的な対象・視線で捉えたもの といっていいでしょうね。いわば「軍事のブラタモリ」だなーと。
調布飛行場の掩体壕は見に行かないといけないね。その記事がコンクリートの品質や「風の谷のナウシカ」の王蟲のイメージが被るといった、モリナガ・ヨウの守備範囲の広さを端的に示しているのは面白い。
連載で読んだときも衝撃だったのは太平洋戦争中の「金属供出」のエピソードで、「軍隊による強制」のようなイメージで語られることも多いこの事例が(まあ、例によって)、軍隊ではなく行政組織全般に広く浸透していた作業であること、その気になれば融通も利く程度の物であったことなど、イメージと実際は随分違ってそうだな…と思わされたことでしょうか。もちろん誰もが自由に融通を聞かせられたわけではないし断れない立場・関係もあったでしょうが、率先して自発的に納入される例もありでそうそう簡単に「軍隊が悪かった」に収斂するものではないのでしょうね。むしろそれは、もっと大きなんー「悪」?から、目を背けさせることでもあるのでね。
NHKの朝ドラなどでおなじみの「空襲に備えて窓ガラスに*状に紙を貼る」光景が、当時の写真を「見れば見るほど見つからない」というのもそれなりの衝撃ではある。イメージで収斂されちゃってることって多いんだろうなあ。