古典的なヒロイックファンタジー小説が読みたくなって。ゲームブック「ファイティング・ファンタジー」シリーズの世界”タイタン”で起きた戦いを描いたこの作品、本来なら1990年代に翻訳出版が成されるはずの物だったんですが、社会思想社清算の煽りで塩漬けになり幾星霜、近年のゲームブック復刊のおかげで2年前に目出度く刊行されていたのでした。むかしからタイトルは聞いていたし刊行決定のニュースも見た記憶があるけど、読むの忘れてました(笑)
安田均の訳文は(初稿が90年代に上がっているんだから当然なんですが)どこか懐かしい雰囲気があり、バルサス・ダイアやザラダン・マー、それに「火吹き山の魔法使い」といった懐かしい面々が90年代の懐かしいゲームブックの世界に耽溺させてくれます。その分探索者たる主人公サイドがキャラ的に弱いのは否めないけれど、”チェルヴァー”という小人の種族*1のキャラクターが面白いです。これホビットに相当するデミヒューマンなんだろうけど、ホビットの設定を使えない(使わない)タイプのファンタジー小説だと、しばしばユニークなキャラに設定されることがあって*2、その辺もまあ90年代的ではあるのかな。
いちばんの山場はガレーキープに乗り込んだザラダン・マー率いるアンデッドや魔術的な合成生物(の失敗作)である”ミュート”等の軍勢とバルサス・ダイアの黒い塔に集うゴブリンやオーガやトロールなどの混沌の軍団が激突する戦場の様相なんだろうけれど、この2つの軍勢の隙を突いてサラモニスの平穏を得ようとするチャッダ・ダークメイン以下パーティの軌跡がなかなか交叉しないのは、ちょっとちぐはぐな印象を与える。戦争を傍目に火吹き山に潜入するところはいかにもゲームブック的で、脈絡のないところで重要なアイテムを入手したり体力点を消費すると効果を発揮するマジックアイテムが有ったりと、これまたゲームブック的な要素を楽しむことは出来ます。
そのうえで、ラストに明かされる仕掛けがああこれ元はゲームだもんげーとまあそれをどう納得するかは、やっぱり読者の方がどれだけゲームブックに勤しんでいたかどうかに依るかなと思われる。