- 作者: 池澤春菜
- 出版社/メーカー: 本の雑誌社
- 発売日: 2014/01/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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池澤春菜という人をはじめて知ったのはいつのことだっただろうか? ラジオ番組「岩男潤子のプクプクペンギンパーク」でコンビを組んでパーソナリティをやっていた時か、あるいは「爆走兄弟レッツ&ゴー」でマグナムセイバーをかっ飛ばしていた頃か。どちらが先かはともかくまあそんな頃合いです。当時既に(今よりはずっと小さなものだけど)「声優ブーム」みたいな動きはあって、声優という仕事(実際のところそれは「役者」という仕事の一部分に過ぎないのだけれど)がただ映像のアフレコをするだけではなく様々な活動の場所を得ていった、そんな時代でした。
その頃人気を博していた若手の女性声優の大半はいわゆる「天然」なキャラクターで売っている人が多くて(なにしろ「私は宇宙人だ」と自称していた人がトップクラスだったのだ)それはそれで結構なことなのですが、そんな時代のさなかにあって池澤春菜というひとは賢いというか利発というかとにかく「頭の回転が速い人」だなあと、同世代の声優陣のなかでもひときわ注目しておりました。バラエティ的な司会やトークが面白くて、テレビ東京で深夜やってた「渋谷でチュッ!」の映像を持ってる人はまだ世界のナベアツになる前のお笑いコンビ「ジャリズム」と丁々発止のやりとりする池澤春菜を今すぐチェックだ!
SFが好きだというお話を伺うことも多くそれもまた自分の中の好感度を高めるものでありました。ハヤカワSF文庫のとある一冊の新刊帯に「池澤春菜氏推薦」の文字が並んでいたときは正直これはどうなんだろうと首をかしげたものですが、あるラジオ番組で(アニゲマスターだったかなあ)スーファミだかPSだかの学園戦争RPGを制作しているおたっきぃ佐々木に「エンダーのゲーム」を薦めたという話を聞いて
このひとガチのSF者だー(゚Д゚;)ーッ!!
などと驚愕して以来、敬称としてこの人には「嬢」を付けることにしている。その後も池澤春菜嬢は役者としてのみならず音楽活動や執筆活動など多彩なお仕事をなされて一目どころか十も百目も置いておりましたが、ガンプラ作例がガチでホビージャパンに掲載された*1ときには流石に驚きましたねえ。
最近ネットで拾ったホビージャパンの「サザ美さん」掲載ページ。シールドに携帯電話用の蒔絵シールを貼るアイデアは今見ても秀逸で、ビルドファイターズに出てきてくれないかな…
才色兼備という四字熟語はこの人のためにあるような池澤春菜嬢ですが、このたび初のご本をお出しになりました。大変ご立派なことで爺は満足です(ノ∀`)ウウッ ってなんだかあんみつ姫の嫁入りを見届けるご家老みたいだって超キモイですね俺氏。
主な内容は「本の雑誌」連載エッセイ「乙女の読書道」第1回から60回(2009年1月号〜2013年12月号)までを収録したものとなります。毎月の本の雑誌を開いたら最初に読むコーナー(ちなみにSFマガジンで最初に読むのは「SFのSは、ステキのS」ですがなにか)、実を言うとここの読書日記で読んだいくつかの本は、本の雑誌のこの連載で紹介されたものだったりします。一冊にまとまってあらためて見ると「タフの方舟」*2なんかそうだな。原典を知らずに躊躇していた「高慢と偏見とゾンビ」*3に手を出したのも春菜嬢の紹介受けてのことでした。「アードマン連結体」*4なんてこれで紹介されなければ気づきもしなかったであろう…。SFのみならずファンタジーやホラー小説など自分の好みと重なる部分がたいへん多くて毎月実に重宝しているエッセイなのです。もちろん中には読んでみたけど合わなかったの、自分がまず手を出さないジャンルの本についての記事もありますけれど、むしろ読み物としてはそのような縁の遠い分野の方が却って得るものも多くて内容としては興味深い。「知るは楽しみなり」とよく申しますがそのとおりで。ひとつひとつの記事は軽妙な文体で要点を押さえ、実に楽しそうに紹介していただけるのでハーレクインもパラノーマルロマンスもつい読みたくなるような気分にさせられます。上質のコンシェルジェが勧める心地よい時間と空間へのガイドブックはまさに「道」案内で、巻末に掲載されている池澤夏樹との父娘対談では「書評は本のセレクトショップだ」と語っています。版型は小さくとも素敵な情報にあふれた、たしかにこの本はひとつのお店なのかも知れません。
自分の好みに合うような一冊を紹介していただければそれは実に有り難いことで、知らない本について知るのは書評を読む楽しみのひとつ。そしてもうひとつの楽しみは自分の知ってる本、とりわけややマイナーな存在の一冊が取り上げられたときの「ああこの人も俺と同じ本好きなんだな」と思わされる時でしょう。K.W.ジーターの「ドクター・アダー」のときはよくもそこまでマニアックなものをと唸らせられましたし、とりわけハインラインと言われて「宇宙の戦士」でも「月は無慈悲な夜の女王」でもなくましてや「夏への扉」でもなく「ルナ・ゲートの彼方」を挙げらけたときにはおおこのお方こそ我らが同好の志!といささか感激したのでありますよ。ウイリアム・シャトナーの「電脳麻薬ハンター」のときは笑い転げるの押さえるのに必死だったりもしたのですけれど(笑)
連載当時は気がつかなかったけれど平田真夫の「水の中、光の底」が既に取り上げられていたのですね。この本の著者がゲームブック「展覧会の絵」の作者だと知って自分が実際に手に取るまでにはしばらく時間が掛かったのですけれど、春菜嬢も同じ本が好きだと知ってちょっと嬉しい。今回一冊にまとまったことで連載時には気付かなかった面白さにあらためて読んでみようと思わされる書籍もいくつかあり、しばらくは読書趣味に不自由することはなさそうです。
また「本の雑誌」だけでなく週刊プレイボーイに連載されていた「Coffee, Tea, or Book?」も掲載されています。1996年頃のもので残念ながらこちらの連載はは全く存じ上げず、むしろまったく知らない内容を新鮮に楽しむことが出来ました。文体も構成もいまとは少し違っていて、それもまた良し。作品名こそ上げられていませんが「メルティランサー」でナナのお仕事をなさっていた時期のようで、その頃の自分を思い出したりだ。同人誌即売会にはじめて行ったらコスプレはいないけどピンクハウスがいっぱいとかまー、時代ですねいろいろと。紹介されている書籍の幅広さは今と全く変わることないのが流石というものかな。
こういうお方になにか本をお薦めできたら本読み冥利に尽きるところではあるのですけれど、それはなんだかイチローに野球を教えるような無茶無謀の行為でアレですな。まあしかし、たーぶんヤン・ヴァイスの「迷宮1000」*5は池澤春菜嬢のお好みに合致するだろうなとでもやっぱり表紙の本棚(ご自宅ですよこれ)見る限り釈迦に説法もよいところですなははは…
個人的に大変満足出来る内容でありました。ホントはオッサンよりは乙女な読書子みなさんの波長にあうご本ではないだろうかと思いつつ、あらためて刊行のお祝いを申し上げる所存。
おめでとうございます(・∀・)ノ
本棚のね、「リトル・リトル・クトゥルー」の横に並べておこうと思います。ちょっとした自己満足です(w