ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

中村融 編「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」

ワイオミング生まれの宇宙飛行士 宇宙開発SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

ワイオミング生まれの宇宙飛行士 宇宙開発SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

うわあ、これは直球ストレートで好みです。な宇宙SFならぬ「宇宙開発SF傑作選」。なにかをenterpriseするってことはアメリカ人の発明品の中ではチーズバーガーの次ぐらいにノーベル萌え大賞もので、それが宇宙に関することならアカシックレコードに今から赤字で書き込んでも良いぐらいに真理。

収録されてるうちの半数ほどはいわゆるオルタネイティブ・ヒストリー、改変歴史もので、そこには前向きな姿勢こそ有りはすれ、決して前を向いているわけではないというある種の不健全さを感じ取れないこともない。が、やっぱり前向きに何かをenterpriseしていくのは面白いんです。ストレートにアポロ計画が引き続いていくウィリアム・バートン「サターン時代」、ナチス・ドイツの秘密計画(!)を元に現実とはまるで異なる量子テレポート(えんたんぐる!!)宇宙開発が進む世界「電送(ワイア)連続体」はアーサー・C・クラーク(!!!)&スティーブン・バクスター。そして冒頭に掲げられた作品アンディ・ダンカン「主任設計者」は旧ソ連の宇宙開発を実在の人物セルゲイ・コロリョフを軸に描いたもので、正直何ががオルタネイティブなんだか解説読むまでわからなかったけど、本文読んでてたったひとこと、

主任がここにいる

もうね、これだけでSF、これだけで泣く。「宇宙に神はいなかった」って言ったのはロシア人で、これはロシア宇宙開発のSFで、書いてるのはアメリカ人だけどせんすおぶわんだーは人類共通の夢ですっヽ(`Д´)ノ


平行宇宙作品のスティーブン・バクスター「月その六」、未来の火星探査を描きつつリスペクトするのは実際のヴァイキング計画であるエリック・チョイ「献身」、王道ジュブナイルなジェイムズ・ラグローブ「月をぼくのポケットに」などなどどいつもこいつも珠玉の逸品ぞろいで、そして表題作、アダム=トロイ・カストロ&ジェリイ・オルション「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」が、一見パルプSFみたいな設定を使いながら大変前向きに、未来志向で、宇宙開発をenterpriseするSFで、そして最後は悲劇で…読み進めながら体温が上がっていくのを感じる。体内で熱量が消費されている。良い読書経験をすると腹が減るのだ。それがつまり燃える!ということですよ同志。*1


解説によるとこの本を編纂するきっかけはSFマガジン97年10月号の「特集:宇宙開発の光と影」*2なのだそうで、なるほど宇宙は二面性だな、と思う。


考えてもみたまえ、宇宙は広い。そこは光年やパーセク天文単位で語られる広大な空間だ。


…でも結構、おセンチな場所だと思うの(ドヤ顔)


個人的な好みを越えて、秋の夜長にひろくオススメしたい一冊です。

*1:NGワード:きょう日中の最高気温

*2:残念ながら未読である。当時はあーいや、まあいいか