- 作者: エドモンド・ハミルトン,中村融,市田泉
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/03/24
- メディア: 文庫
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まず苦言から先に言いますが、東京創元社がこの珠玉の短編集を品切れにしているのはとんでもない怠慢だと思います。創元SF文庫がキャプテン・フューチャー全集を精力的に刊行していた2005年初版なのに、全然どこにも見つからなくて困った。ようやくジュンク堂書店のオンラインで見つけた*1けれど、そこにも「眠れる人の島」は無かった…
キャプテン・フューチャーは店頭でもよく見るのにね、なんでだろう?フューチャーメンこそハミルトンで他は全部け足しだ。みたいに思っている方が居られたらそりゃ大間違いですよと声を大にして言いたい。むしろハミルトンの作品群の中では連続冒険活劇シリーズ「キャプテン・フューチャー」の方が異端なのだと、編者中村融氏がブログで記事にしていたような*2
本書はそんなハミルトンの作品からとりわけ「奇想SF」に分類されるようなものを10編選んで編纂されたもの。過去に訳出された名作の新訳また本邦初訳もあり、どの作品も奇抜なアイデアに富んだ傑作良作つぶぞろいです。最初はねー、全作品に短い感想を付けていく形にしようかと思って読んでたんだけど、巻末作品「プロ」を読んだらなんかもういろいろぶっ飛んじゃってね。「フェッセンデンの宇宙」*3に収録されている「向こうはどんなところだい?」*4と並ぶ傑作だと言われるのもうなずける。
「プロ」という短編は、実はSF小説ではない。「SF作家小説」である。ある老成したベテランSF作家(ハミルトン本人をモデルにしたのがありありとわかる、パルプSF作家)とその息子の宇宙飛行士の物語。打ち上げを目前に控えた親子の会話、息子の同僚達による著作への賛美、仲間意識と「SF作家の父と宇宙飛行士の息子」の構図に群がるマスメディア…。
そこからだんだんと浮かび上がってくるのは主人公が抱える何らかの欠落意識で、一体それは何なのか、それが明らかになったときに「プロ」というタイトルが効いてくる。ほんのわずか、文庫にして約20ページの作品でここまで胸を打つのだからやはりプロの腕前だ。
現実ではハミルトンの子供は宇宙飛行士になったりはしないけれど、では現実の宇宙飛行士たち、ガガーリンやマーキューリー計画のライトスタッフたちは、いったいどこまで「SFの息子」だったと思います?
だいたいそんな話か。こういう作品は長年SF――特に宇宙SF――に関わり、宇宙開発が絵空事であった時代からそれが現実の物になるまでの期間を実体験として目撃してきた優秀な作家でないと産み出すことは出来ないだろう。この先二度と現れないのではないだろうか。
と、バーネットは不意に合点がいった。しゃくにさわる疑問に答えが出た。ダンが落ち着いているのは、訓練された職務を遂行しているからだ。プロはダンであって、おれじゃない。宇宙を夢見て、たわごとを並べたり、書いたりした作家たち、おれたちはただのアマチュアだった。だが、いま本物のプロが登場した。日焼けした冷静沈着な科学者たち。彼らは宇宙についてたわごとを並べるのではなく、そこに行って、みずからの手でつかむのだ……。
そして白い矢は上昇をつづけ、声がそれを伝え、ロケットは視界から消えた。
サリーが部屋に戻ってきた。
「完璧な打ち上げだったよ」彼はいった。そして理由もないのにつけ加えた。「あの子は行ってしまった」
この作品が全然読めないのが癪に障るので話のキモを書き出してしまった。ネタバレ勘弁、全部絶版が悪いのよ。
これに限らず寂しい話が多いんだけれどけれど、そこに描かれている寂しさは実感の湧くものです。スペースオペラだけでしかハミルトンを知ることが出来ないとしたら、それは本当に損失だと思う。それは例えばジブリアニメだけで宮崎駿を知るようなことかな。
ああ、次は「眠れる人の島」を探さなきゃ…
*1:帯が日焼けしていたからなのか、返品も可能ですとのお断り書きが同封されていました。いえいえ、感謝するばかりです
*2:「SFスキャナー・ダークリー」の、ちょっと日付は忘れましたがどこかで見ました