ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ハメット「ガラスの鍵」

ガラスの鍵 (光文社古典新訳文庫)

ガラスの鍵 (光文社古典新訳文庫)

面白い、面白いんだけど感想を書くのが難しいなぁ…。

一度読んで解説に目を通し、二度読みし、更にチャンドラーの「簡単な殺人法」*1を読み返して漸くイマココ。書いてあること自体は別段難しくは無い、しかし何が書かれているのか読みとるのが難しい…のかな?何かが、具体的に言うと友人同士の信頼関係が壊れる話という点では、「長いお別れ」と比べられそうな(それは多分マーロウとスペードを比較するよりは有益な作業だと思う)気がする。文体についてはつとに言われる事柄だけれど、三人称のこの小説、主人公の行動が原文では「ネッド・ボーモント」と代名詞も用いず全てフルネームで記述されているとのことで、その辺りの突き放し加減を日本語で拾うのは難しいかも知れないね。翻訳されていることで一端フィルターが掛けられ、ある程度は突き放されたモノとして受け取らざるを得ない訳で。

「ハードボイルド感は人それぞれで千差万別」というようなことを前に本読みの師匠から聞いたことがあって、あと「ハードボイルドとは個人の譲れない一点に於いてNOを言う作品である」は誰に聞いたんだったか、まあそんなことを楽しめる作品です。解説ではハメットを「ノワール小説」の先駆だとして本作でのヒロイズムの不在や閉塞感について書かれ、なかなかに面白い。どうも「ノワール」と聞くとインモラルな――性的な意味じゃなくてな(笑)――ものを想像しがちなんだけど、チャンドラーが「一友人に対するある男の献身的な記録」と称した「ガラスの鍵」には確かに何らかのモラルが存在すると思われる。そこでその、ネッド・ボーモント個人が持つモラルに反せず、譲れない一線に於いてNOと言えるからこそ本作のラストは寂しいんだと思う。

壊れると言えば親子の信頼関係が壊れるジャネット・ヘンリーや、ネッド・ボーモントの(かなり悪辣な)手管でボスとの信頼関係を壊され、結果自らの手でボスを殺して警察に逮捕されてしまうジェフ・ガードナーの閉塞感、絶望もまた深いもので…どうもね、ラストがあまり「救い」に見えない。後味の悪さこそがこの作品の愛すべきところなのかも知れないなーとは思うのだけれど。

そんなところか。