ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ブラックウッド「秘書綺譚」

秘書綺譚―ブラックウッド幻想怪奇傑作集 (光文社古典新訳文庫)

秘書綺譚―ブラックウッド幻想怪奇傑作集 (光文社古典新訳文庫)

アルジャーノン・ブラックウッドの短編集。表題作は以前「怪奇小説傑作集1」に収録されているのを読んだ*1けれど、主人公のジム・ショートハウスを主軸に据えた連作?もの全4本を含む。で、このジム・ショートハウスくん、

彼の性格は作品によって多少違いますが、若き日の作者の分身であることに変わりはありません。有名なジョン・サイレンス博士の蔭に隠れている、このもう一人のゴースト・ハンターに着目いただきたいというのが、本集のささやかな趣向であります。


南條竹則によるあとがき(ブラックウッドについて、また日本でのブラックウッド需要について簡潔にまとめられ、大変面白く読めました)にはこのように書かれているけれど、特にゴーストハントはしません(笑)全4本のうち「空家」と「壁に耳あり」はショートハウスくん幽霊に遭遇してビックリとゆーそれだけのお話だし「秘書綺譚」で出会うのは2人のガイキチであるし、漸くゴーストハントらしきことをやらかす「窃盗の意図を持って」では危うくゴーストにハントされるところでした、てへぺろ

だいたいジム・ショートハウスものはこんな感じでありました。ジョン・サイレンスの蔭に隠れるのも無辺なるかな…。でも、キャラ的には「空家」に登場する「幽霊屋敷の鍵をお借りしたから今晩ちょいと出かけてみましょうよ」のジュリア叔母さんが怖いもの知らずで面白い。

「でも、一人じゃ行かれないでしょう――」と彼は言いかけた。
「だから、あなたに電報を打ったのよ」叔母はキッパリと言った。
 ふり返って叔母を見ると、醜い、しわだらけの、謎を湛えた顔は興奮に生き生きしていた。情熱の輝きが後光のように顔をつつんでいた。眼はキラキラ輝いていた。彼は叔母から興奮の第二波を受けとったが、そこには、最初の戦慄よりも、もっとはっきりした戦慄が伴っていた。

…なんてメーワクな人なんだΣ(゚д゚lll)

この二人の関係性だけ活かしたら現代でもちょっとしたホラー・コメディ風味の作品が出来そうかな、などと思わざるを得ない(w;

シリーズ外の作品では「約束」というのが面白かった。お話自体は死んだ人間が生前の約束を果たすために幽霊となって訪ねてくるよくある話、小泉八雲にもあったりするゴーストテイルなんだけど、やってきた幽霊がただバクバク飯を食いそのままグースカ寝てしまうだけだというのがなんかこー、即物的だなぁと。

そして巻末に来る「転移」という一本がとてもおっかないのであった。この作品は非常に奇妙で、ちょっと説明し辛い。とにかく不条理でいや、条理は通っているのか。怖いんだけどそこには恨み辛みとか情念が全く欠落して「自然現象」として描かれてるのが怖いのかな?

「ドライな」という形容が全編に当てはまりそうな気がする、そんな作品集です。