ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

橋本槇矩 訳「夜光死体」

 

夜光死体―イギリス怪奇小説集 (1980年) (旺文社文庫)

夜光死体―イギリス怪奇小説集 (1980年) (旺文社文庫)

 

 旺文社文庫からもこんな怪奇小説アンソロジーが出てたんですね。おおむねイギリスの、19世紀あるいは20世紀初頭?ぐらいの作品を、著名どころからほとんど無名の作家によるものまでいろいろ集めた作品集。全般的に古さは否めない(なにしろ100年以上前の作品がほとんどだ)し、訳文もやや古めかしい(なにしろ40年近く前の刊行だ)けれど、そういうものだとわかって、あるいはそういうものを楽しむための読書には良いでしょう。伝承文学とも違うしいわゆる「モダンホラー」でもないけれど、執筆当時のモダンは反映されているのだろうなと、ウェルズの「故エルヴィシャム氏の物語」と、さらに巻末の作品解題を見て思う。

また巻末には解説として「恐怖小説の効用」の題でいわばエッセイ的な内容のものが掲載されており(富山太佳夫による)、これがなかなか読ませるところで、短いながらも1980年当時のオカルトブームやその社会的地位などをいろいろと考えさせられる。現在よりもはるかに「主流文学」が主流であった時代に、これらの作品を訳出する意味や意義は真剣に考慮されていたのでしょうね。

しかしタイトルにもなっているディック・ドノバン「夜光死体」が「嵐の夜に『幽霊風車小屋』の近くを通ったら幽霊が出た。調べてみたら行方不明者の死体を発見した」という、ほんとにただそれだけの話だったのはまー素朴といううか純朴というか、エンターテインメントって加速するものなんだなーと思わされたりだ。ところがヘンリー・ジェイムズの「ある古衣の物語」での幽霊の描き方(描かれ無し方、だったりする)はいま読んでも十分鮮烈で、時代を越えるだけの速度も持つ作品というの、もあるのでしょうねえ。