ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

阿刀田高「黒い回廊」

ホラー小説、怪談の話をツイッターでやりとりしてて、そういえば昔日本の一般向け作家の作品で怖い話があると聞いたなーとふと思い出して。タイトルが「西瓜」だったような気がして、作者は阿刀田高だったような気がして、図書館の検索機に「阿刀田高 西瓜」と打ち込んだら出てきた一冊。考えてみたら人生初阿刀田高でした。読んでみると確かに怖い、けれど幽霊妖怪超自然現象の類いではない、ひとつひとつの作品で描かれるのは「人間の怖さ」であって、どこか不条理なところがいわゆる「奇妙な味わい」作品を怖い方向に降っているのだなーと*1。読み終えてなんかロアルド・ダールっぽいよなと思ったら、手元にある「飛行士たちの話」で巻末解説書いていたのが阿刀田高でした。成程。

どれも古い作品で80年代から90年代初頭の文庫本に収録されたものをセレクトしているんだけど、初出情報は無し。いかにも昭和のディティール、文体だなと思うのはスマホもネットも影も形も無し、夜のスナック・バーに入るとマスターがカウンターの中で競馬新聞読んでるような世界。こういうのがたぶん「中間小説」なんでしょうね。特にジャンル・プロパー向けのホラーやミステリーではなく広く一般に向けた、ほんのわずかの間ページをめくらせ楽しませるようなもの。やたらと情事とか不倫とか出てくるのは昭和のおじさんの夢とかロマンとかそういうものなんだろうなあ…。なかでは「妖虫」というのがオチまで含めていいかな、と思。ちょっとえちぃし(何)

 

それで西瓜を題材にしたものとして「西瓜流し」というのが載っていました。成程これは怖かった。でも聞いた話とちょっと違う。こりゃー一体どういうことだいとあらためてグーグル先生に「西瓜 怪談」で調べてもらったら…

 

阿刀田高じゃねえ、岡本綺堂(´・ω・`)

と、ご教示いただく。しかも青空文庫で読めた。

www.aozora.gr.jp

 

ああうん、確かにこれだ。西瓜と生首の話。いや「西瓜流し」も西瓜と生首の話なんだけど岡本綺堂の方がよりいっそう不条理で、特に謎も理由も解明されない突き放したような怖さがあります。思うに、阿刀田高の「西瓜流し」はこの岡本綺堂の「西瓜」を受けて書かれた返歌なんじゃないかなーと、そんなことを考えた。

どちらもその、大声で悲鳴を上げるような恐怖ではなく、ぞっと震えが走るような恐怖。terrorではなくてchillのほうのホラー小説です。半村良の「箪笥」とかあったよな、そういう怪談の流れっていまはどうなってるんだろう?

*1:幽霊が出てくる作品もあるけれど、怖さは幽霊ではない所にある