ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

カート・ヴォネガット&スザンヌ・マッコーネル「読者に憐れみを」

今は亡きカート・ヴォネガットが1960年代にアイオワ大学で創作論を教えていた際の学生であり、その後も長らく友人であったスザンヌ・マッコーネルによる「書くことについて」の本。

例によってこの本を読んだからと言って読み手の執筆能力が向上したり、行き詰まっていた原稿に突破点を見いだせたり、喪われた執筆動機が再発見されるようなものではないので、その点はご注意いただきたい。どちらかというと作家の心構えとか、執筆に際してどうあるべきかとか、生活の規範とかまあそんなことが書いてあるわけです。結構なボリュームをゆっくり読んだけど、手元に置いて時々読み返したら、時々は何か気づきを得られるかもしれない。そういう内容ではある*1

ヴォネガットの著作からかなり広範囲に引用が成されていて、むしろここからヴォネガット作品に入り込む手引きとしては良いものかも知れません。とはいえ絶版品切れのものも多いし、いまはどこまで読めるんだろう?ネットでプレミア付いてるの探すよりは、良い図書館に訊ねてみるほうがいいんじゃないかなとかね。ただ引用されてる文章も新規に訳出されたものなので、既存の翻訳とは違っています。ひとつ大きく気になったのはここ

正直、これはちょっといただけなかった。責任者を問う必要がある。責任者はどこか。

 

それと「タイムクエイク」で挙げていた作家の2類型、「スイスイ型」と「ゴリゴリ型」を本書では「すらすら型」「ぶち壊し型」としていて、それもちょっとモニョる。これ本書では「タイムクエイク」ではなくて1974年のインタビューから訳出されていて、そっちがオリジナルなんでしょうね。原文がどうなっていたか知りたいけれど、この点に関しては「タイムクエイク」を訳した朝倉久志のワザマエなんだろうな。

引用ばかりではなく創作講座でのやり取りや、日常の他愛ない会話などヴォネガットの人となりやスザンヌ・マッコーネルのものの見方など普通に読んでて面白いものではあります。貴重なタイプ原稿やおことわりの手紙とか、資料的価値の高いものも掲載されています。表紙の見返しには「名文の書き方」というエッセイが、これ「パームサンデー」にも載ってるものなんだけど、オリジナルの紙面をそのままのかたちで掲載されてて面白いな。手元の「パームサンデー」で確認した*2けど、この記事に関しては本書の方が翻訳が良い。しかしちょっとレイアウトが読み辛いので要点だけ抜き出しておくと

  1. 自分が関心のあるテーマを見つけること
  2. ただし、だらだらと書かないこと
  3. 簡潔に書くこと
  4. 勇気をもって削除すること
  5. 自分らしい響きを持たせること
  6. いいたいことを的確にいうこと
  7. 読者を憐れむこと
  8. もっと詳細なアドバイス

となります。オリジナルに在ったこの番号付きの見出しが「パームサンデー」のほうでは落されてたのですね。この8か条はいろいろと形を変えたり切り出されたりして本書の様々なところで顔を出すけれど、まあそれが出来れば苦労はしないよな、と思ったりもするが(笑)

 

本書で最も印象に残った一節はヴォネガットじゃなくてスザンヌ・マッコーネルによるもので、こちらもページスキャンしてツイッターには上げたんだけど、あらためて書き出してみるとこうなります。

真実を吐き出す勇気を持つ

 ストーリーや登場人物のキャラクターが読者にとってわかりにくかったり、バランスを欠いていたり、不十分な点があったりするのは、作者が自分にとってつらい感情的な部分を避けたり隠したりしているせいかもしれない。自分の経験をフィクションという形にすることで違うものにすり替えたとしても。これまでの人生で起こったことや、ほんとうの自分の核となる情報源を活用しなくてはならない。ヴォネガットは明らかにそれをした。あるテーマを情熱を持って語れという彼のいちばん大事なアドバイスを実行するには、自分の心を動かした経験に頼るしかないだろう。

 たとえフィクションにすり替えたとしても、真実は恐ろしいかもしれない。

 親指をくわえたり、助けを求めて誰かの手を握ったりすることになるかもしれないが、それを吐き出すしかないのだ。

(436p)

それが出来れば苦労はしない(´・ω・`)

*1:案外、いま現在職業作家であるひとには、直ちに影響を与える何かが見つかるかもしれない。

*2:ハヤカワ文庫版だと120p~127pに載ってる。