ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

米澤穂信「黒牢城」

おそれいりました。

米澤穂信はいろんな話を書くんだなと思わされたのは「折れた竜骨」読んだ時*1だけど、あれから10年経ってまさか時代小説まで書くとは思わなかった。そして時代小説の形式を採ったうえで、そこで語られるのはやはり本格推理である。戦国時代の武将荒木村重を主人公に据えて、有岡城の戦いを背景に描かれた、4つの連作ミステリー。荒木村重という人は名前ぐらいは聞いたことあったけれど、詳しいことは知らなかった。日本史には疎いのだ(ここ伏線です)。

 

ja.wikipedia.org

wikiにもあるけど舞台となる有岡城は「総構え」と呼ばれるいわば城塞都市のような作りで、いざ籠城となれば城内には兵士だけでなく一般の庶民(一般の庶民という言い方はしないんだけどさ)も多く在り、それがまた作品全体のひとつの伏線になっているわけです。ひとつひとつの章はミステリーとしては王道な密室殺人や入れ替えトリックなどからなり、城主である荒木村重はその謎を解くために現代に転生した諸葛孔明の知恵を

 

仰がねえよ(´・ω・`)

 

織田方の軍使として有岡城に赴きそして捕らえられた黒田官兵衛(これは史実通り)を探偵役に据えて話は展開します。安楽椅子探偵のようだが探偵は安楽椅子ではなく土牢に押し込められている。黒田官兵衛荒木村重の「軍師」として謎解きのヒントを与えるのがなんかパリピ孔明を思い起こさせたのだが土牢はクラブじゃないしパーティーもしねえよ。羊たちの沈黙」のレクター博士なんだろうなあ本当はね。

で、まあ例によって例のごとく謎解きは謎解きに過ぎず物語のキモはその先にある。本作でその先にあった物のひとつは地元の国衆を従える余所者トップの孤独という、今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の源頼朝と似たものだけれど、加えて「さよなら妖精」や「古典部シリーズ」「小市民シリーズ」あるいは「インシテミル」と同様の、昔から米澤作品に流れるテーマも在ります。そして今回はさらにその先がありました。それを読んでの冒頭の感想であります。おそれいりました、まさかこんな作品を書かれるとは。成程直木賞受賞も納得です。

それでね、米澤作品って話の途中で「わかる読者にはわかる」ような仕掛けが成されていることが多くて、本作も多分わかる人は途中でわかったんだろうなって思うのよね。やあ俺日本史詳しくないからねえ(ここで伏線を回収する)

 

しかし毛利家というのはいつも動かないなあ。それぐらいなら知ってるけれども、当時の人は知らないのよね。