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ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

マーヴィン・ピーク「ゴーメンガースト」

ゴーメンガースト (創元推理文庫―ゴーメンガースト3部作)

ゴーメンガースト (創元推理文庫―ゴーメンガースト3部作)

決してダラダラ読んでるつもりは無いのだけれどゆっくり読み進めているうちに気がついたら新装版書店に並んでましたね…

さて三部作のなかではもっとも面白いのは明らかにこの第二作なのだけれど、その面白さをどう伝えればよいのかまったく分からないので実は途方にくれている。前作ではまだ嬰児に過ぎなかったタイタスが成長し、伝統と因習に反発を覚えつつ自己を確立させ愛を知り憎しみを抱き死に直面する。生きるとはつまりそういうことでうーむなんだろうなあ。「死」あるいはタナトスは第一作「タイタス・グローン」と本書を色濃く支配しているテーゼで、あらゆる人と場面の全てはみなエロスよりもタナトスに直面しているような感じではある。

「おお神様」と独り言のように囁いた。「この世には嫌なことと死しかないの?」

まさに、まさに。

そうはいってもギャグ要素は多く、前作に引き続いて大勢の登場人物たちがそれぞれのささやかな生を過ごしていくのだけれど、突然とんでもなく笑える場面が捻じ込まれてきて(かなり、ヒステリックな)笑みが浮かんでくるのが自覚されます。今回新登場するゴーメンガースト城の教授連などほぼ全てのシーンで笑いを誘ってくれますが、ギャグじみた様相で死んだり発狂したりするひともまーおるわおるわ。


伝統や家系や、様々なものに縛られそこから抜け出そうともがくタイタスの有り様は実に思春期の少年らしいそれなのだけれど、ついにアイデンティティを確立させた、せしめたものが怒りや憎しみ、敵の死を願うことだというのが秀逸だろうと思うわけです。

「教えて差し上げます!これがぼくの理由です。笑いたければどうぞ!あいつはぼくの舟を盗みました!フューシャを傷つけました。フレイを殺しました。ぼくに怖い思いをさせました。<石>への反抗だろうとそんなことは知っちゃいません――なによりもあいつのやった事は盗みと非道と人殺しです。それが何を意味するかなんてぼくの知った事ではありません。城の心が健全かどうかなんて知った事ではないんです。ぼくは健全なんかごめんです!言われた事しかやらないなら誰だって健全になれます。ぼくは生きたいんです!お判りになりませんか?ああ、わかって下さいませんか?ぼくはぼくでありたいんです、この手で作った自分に、人間に、本当の人間になりたいんです。もう象徴ではなくて。それが理由です!あいつは捕らえて殺すべきです。フレイを殺したから。ぼくの姉を傷つけたから。ぼくの舟を盗んだから。それで充分でしょう?ゴーメンガーストなど、どうとなれです」

長台詞だけれど重要な箇所なのでそのまま引用する。こんな台詞がありながらも本書のタイトルは主人公タイタス・グローンではなく「ゴーメンガースト」だ。前作では無垢なままだった主人公をタイトルに据え、今回はあきらかに物語の中核を占めているその名を敢えて外すこの意図は…なんとなく想像はするのだけれど・・・・・・やはり、謎である。

この台詞を発した直後に姉フューシャ死亡の報を受けてタイタスは怒りに駆られて仇敵スティアパイクを追い詰めるのだけれど、フューシャの死因がスティアパイクに殺害されたわけでもなんでもなくてただビックリして窓から転げ落ちたからだっていうのはやっぱりギャグなんですかね。

明らかに幻想小説でありながら、超自然的なことはなにひとつ起こらない。架空の世界を使った純文学みたいな雰囲気で著者ピークが「ファンタジー小説界のディケンズ」なんて呼ばれるのも納得します。