- 作者: 月村了衛
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/09/21
- メディア: 単行本
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シリーズ3作目。第一巻の冒頭で爆発に巻き込まれて以来何かと損な役回りだったユーリ・オズノフ警部はとうとう特捜をクビになっちゃいましたわはー。というわけで路頭に迷ったユーリは旧友ゾロトフの伝手を頼って武器密売の闇市場で新型機甲兵装の取引に関わるのであった…ってそんなの囮捜査に決まってますやん、というのは第一章で早くも明かされる。いわば潜入捜査もの、ですかね。そういう種類のサスペンスです。過去の回想を挟んでキャラクターを掘り下げるのは前作「自爆条項」と同様、けれど今回は回想パートが第二章だけに纏められていて、より読みやすい構成にはなっているようです*1その第二章「最も痩せた犬達」で描写されるロシア社会とモスクワ民警の様相はなかなか読み応えがあるもので海外物の翻訳小説を読んでるような、あるいは全盛期の船戸与一を読んだときのような、そんな印象を受けました。
犬の話…ですかね。飼い犬、捨て犬、野良犬とそして猟犬と警察犬。押井守の一連のケルベロスシリーズを好む方なら今回の「暗黒市場」は親しみやすいものでしょう。ユーリの危機に整然と駆けつけるドミトリー・ダムチェンコの格好良さはたぶん、犬の格好良さなのだろうな。
震災からの復興した東北地方が犯罪の温床と化している姿を描けるのはたぶん小説だからなんだろうな。より多くの目にさらされる例えばTVドラマなどでは、ポジティヴな表現でないと許されざる空気があるように思えます。犯罪組織の経営するホテルの地下設備で機甲兵装同士の闇バトリング*2ってベタな展開だけど、それをちゃんと書けるのは腕前あってのことでしょうね。
前作に比べると若干ボリュームが少なく展開も早いようですが、今回も十二分に面白いものでした。姿警部のコーヒー好き描写がすっかりギャグの領域に達しているのと緑ちゃんサービスキャラ過ぎ(だって全裸で嘔吐ですよ!)なのはちょっとどころかいいぞどんどんもっとやれって感じですけど。
余談。
この本図書館に予約入れたら予約順位1番になってから随分待たされました。図書館資料を延滞する不埒者には革命的鉄槌を加えるべき。そして待たされて手元に来たのは交流関係にある他の自治体から取り寄せられた一冊でした。図書館行政の利便性の高さと、なにより東京都多摩市民のみなさんに感謝しつつ、手早く読んで手早く返却いたします。m(_ _)m
そんで巻末の謝辞一覧に「国際政治研究家の斎木伸生氏」ってあったけど、あのひといつからそんな肩書きになったんだよw