タイタス・グローン―ゴーメンガースト三部作 1 (創元推理文庫 (534‐1))
- 作者: マーヴィン・ピーク,浅羽莢子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1985/04
- メディア: 文庫
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創元がゴーメンガースト三部作を新装復刊すると聞いて、おまけに四巻目が追加されるとも聞き及んでものすごくひさしぶりに読み返してみる。99年の版を一読後は長年本棚に置いておきながらこれまで全然再読しなかったのは、そのボリュームもさることながら決して読み易くは無い文章と一筋縄では行かない展開と、ともかく色々重めの幻想小説です。
ストーリーを説明するのはこれが結構難しくて、この第一巻「タイタス・グローン」でなにが起きているかというと巨大なゴーメンガースト城の城主にして第七十七代グローン伯爵の地位を受け継ぐタイタスが生まれてからだいたい一年経つぐらいのお話でつまり主人公はなんにもしないのであります。
むしろ記述の中核となるのはゴーメンガースト城の内外に棲む様々な人々の人間模様、風変りな有り様と生活そのものであって、なにしろ出る人出る人ヘンなのばっかりです。言動がおかしな人もいれば本当に頭がおかしい人もいますし、善人だけど素っ頓狂であったり陰謀を張り巡らせるものであったり普通の人が全然出てきません。
それがよいのさ。
著者自らの手によるペン画の挿絵もあいまって、どこかグロテスクな夢を見るかのよう。本書のページをめくる行為はただ活字を読むのではなく行間にひろがるその世界にどっぷり漬かって、出来れば読み手の側も多少は頭がおかしくなるぐらいの楽しみを味わうものです。ずいぶん時間掛けたけど、まだこれ最初の一冊なんだよなー。
<ゴーメンガースト>三部作がかかえる最大のテーマは、『指輪物語』や『ゲド戦記』のような<試練>ではなく明らかに<脱出>である。それも現実からの逃避という意味から見た<脱出>ではなく、悪夢のようなゴーメンガースト城自体からの<脱出>、つまり現実の方への逃避なのだ。これをピーク流に言えば<幻想からの目覚め(ディスイリュージョン>になるだろう。しかし同時に、ディスイリュージョンという語が<幻滅>を意味することもついでに指摘しておこう。
荒俣宏による巻末解説より。第二巻「ゴーメンガースト」の展開と第三巻「タイタス・アローン」の衝撃的な帰結はまさにそのようなもので、続く第四巻の構想を若干のメモに残して病没した著者ピークの夫人による補作が第四巻となるそうなのですがどうなんでしょうねえそれ。