ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ベン・H・ウィンタース「地上最後の刑事」

地上最後の刑事 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

地上最後の刑事 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

コンコード警察の新人刑事パレスはマクドナルドのトイレで発見された死体に疑問を抱く。誰もが自殺と信じる中で彼が抱いた違和感はそれが殺人事件であることを示唆し、同僚達へ協力を求めるが、折しも半年後に迫った巨大隕石との衝突を前に地球人類の文明とその社会は急速に崩壊しつつあった…

という、いわば設定勝ちみたいなところのあるミステリー小説です。人の死がありふれた世界でひとつの事件を追っていくタイプの作品はいくつも例示を挙げられましょうが、ポストホロコーストならぬ「プレ・アポカリプス」的な終末世界で殺人事件を捜査するのはかなりユニーク。警察小説ではありがちな周囲の無理解や組織の腐敗も、そこら中でバタバタ自殺者が溢れ腐敗どころか崩壊していく警察機構、対照的に強権を増していく連邦政府や軍の暗躍もあいまってなかなか読ませるもの。殺人事件とその解決自体はまあ、ありがちなところに落ち着くのですが、何故そうなるに至ったか、ホワイダニットの部分が80年代的な核戦争の脅威よりももっとわかりやすいところに在る破滅の気配というのがこれまた。

卑しい街に誇り高き騎士というのもアメリカのミステリー、ハードボイルド小説の類型のひとつと言えばその通りではありますが、なすすべ無く壊れていく世界で真面目な警官がどう生きるかというところが、本作のひとつの魅力と言えましょう。

ほんでこれ全三部作なのな。次巻以降では今回顔見せ程度だったモトカノのアリソン(連邦政府のとある官庁に務めているらしい、さてどこでしょうね)や、一見するとバカップルの片割れのようで実は冷徹な反体制活動家らしい妹のニコも活躍するのかな?

今回のラストでパレスは警察を辞し、次回は隕石(小惑星マイア)衝突まであと3ヶ月の時期が舞台となるそうです。さてどうなることやら。