ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ユッシ・エーズラ・オールスン「特捜部Q ―キジ殺し―」

特捜部Q ―キジ殺し―― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1853)

特捜部Q ―キジ殺し―― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1853)

デンマーク警察未解決事件捜査部門「特捜部Q」シリーズ第二弾。前作*1はかなりユニークな構成だったけれど、今回はこの手の「未解決もの」としてはオーソドックスかも知れません。20年前に寄宿学校の上流階級子弟グループが犯した殺人事件と身代わりになって収監された庶民という構図は日本のミステリーや、なんだったら時代劇でもよくある話のような気がする。ここで日本だと「貧乏=善」という不文律(w が働いて無実の罪、冤罪をあばくような展開をするのが普通でしょうが特にそういうことはなかったのでそれは好印象。単純に勧善懲悪のお話ではありませんね。

真犯人は誰かという謎解き要素は冒頭から放棄されていて、当時のグループ関係者の中で唯一の女性であるキミーのキャラクターがなぜそのグループを外れたのか、なぜ十数年間ホームレスとなって都会の只中に隠れて生きているのかといったところが話の焦点か。前作「檻の中の女」もそうだけど女性キャラクターが凄惨な目に遭う展開は好悪の分かれるところかも知れません。そしてやっぱり前作同様、デンマーク警察の内部がヒド過ぎる(笑)今回も簡単に圧力に屈して捜査中止を命じたりそもそも事件発生時の捜査や裁判が杜撰だったりで主人公のカールを始めとする特捜部Qのメンバーがあんまり優秀に見えない…

わけではなく。

アサドくんマジ優秀です、飢えたハイエナの檻に放り込まれてもハイエナを制圧して無事生きてるところスゲー(゚Д゚)そしてどうも彼、自称するほどシリアと縁が深くなく、むしろイラクと関係してるようなんである、ふむふむ。さらに今回から加わった第3のメンバー、女性アシスタントのローセも面白いキャラのようで、なんでも酔うと乱れる(きゃー)とかでこの先楽しみです。

前作の感想では書き忘れてましたが聞き込みに行ったら「個人情報保護」を盾に断られたりするところは如何にも現代のミステリー小説で、今回も「デンマークアフガニスタン派遣部隊」なんて言葉が出てきて同時代性を感じさせます。ですから渡航した先のスペインで物乞いからホームページのアドレスが記された名刺を受け取るシーンも、少なからずリアリティを掻き立てられる場面なんだろうなあ。


事件が解決しても誰も幸福にはならず*2、しかし事件の外でカールの人生、生活には重大な変化が起こって今回は幕を閉じます。シリーズ第三弾は「ガラスの鍵」賞なる北欧最高峰のミステリアワードを受賞したとかで刊行が待ち遠しいですね。過去のデンマーク警察の捜査が甘い事やカールが部下を喪い左遷されるきっかけとなった「ステープル釘打機事件」に、何か裏がありそうな、伏線のような何かが…

*1:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20120202#p1

*2:考えてみれば「悪人」が逮捕されずに死んでしまう展開は前回と同様だなー