特捜部Q ―Pからのメッセージ― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
- 作者: ユッシ・エーズラ・オールスン,福原美穂子,吉田薫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/06/08
- メディア: 単行本
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デンマーク警察小説「特捜部Q」シリーズ第三弾。今回はビンに詰められ海に流された正体不明の人物からの助けを求める手紙を、7年後に漸く入手していざ捜査という段取りでっていくらなんでも手遅れ過ぎる(わら
というのは冗談で謎のメッセージ*1を解読し関係者を辿って行くと、やがて明らかになるのは陰惨な事件…。例によって視点の切り替え、カットバックが多用され、当初はコミカルさも含んだ特捜部面々の行動と、現在もなお続く新興宗教の敬虔な信徒の家庭を狙った連続誘拐殺人事件の謎の犯人(とその周辺)の様子が対照的に語られます。ふたつの立場がひとつに収束していく様はいつにも増してサスペンス満載か。同一の瞬間、同じ時間帯の別の場所が記述されるので普通に読んでいると時間軸が前後して若干戸惑うかも知れませんが、一旦作品のペースに乗ってしまえば疾走感で読める気はする。いつにも増して被害者の側が行動的で、子供を誘拐された母親ラーケルと市職員イサベルの二人の女性が犯人の残したわずかなシッポをつかまえて車で激走追跡するアクションは前の二作品には無かった感が在る。実在する宗教団体の名を挙げて信仰と家庭内暴力を題材にした重さと言い、どこかひとつ抜きん出ていて北欧を代表するミステリ賞「ガラスの鍵」賞を受賞したのもわかるような…最後のね、台詞がいいのよ。救いがあってね…
例によってキャラは魅力的です。主人公カールは今回念願かなってカウンセラーのモーナとイイ関係になっちゃいますし、自称シリア人アサド君も謎と秘密一杯で元気だ。前回から加わった特捜部Qの紅一点ローサはカールの無茶な指示にブチ切れ職場放棄(笑)代わりにやってくる双子の姉妹のユアサがあーこりゃアレだなと思ったらやっぱりアレで。大変な人しか出てきません。
そして今回新登場した新キャラクター、カールの離婚寸前の妻ヴィガの実母カーラがとんでもなくアレなひとで、認知症を発症して介護施設で事実上寝たきり精々オモチャで遊ぶぐらいしかやらない婆さんなのだが、たった数行の出番しかないのにも係わらず(どうやら中東でかなりの修羅場を踏んできたらしい)アサド君を心の底から(((((((( ;゚Д゚))))))))ガクガクブルブルガタガタブルブル させるあーなんかもーすごいデンマークすごい。
刑罰が軽いので外国から犯罪組織が流れ込みやすいとか、あまりにサービス過剰な病院のウェブサイトを利用して易々と犯人の侵入を許すとか、現代のデンマーク社会が抱えている問題点がいろいろ見られるのは前二作と同様面白いところです。さりとて社会派を気取る訳ではなくエンターテインメントに徹しているところが一番の魅力かな?そして今回も犯人は、普通には逮捕されなかった…
*1:ここには書けない事情もあるけど、なにしろ海水にどっぷり浸かりその後数年窓辺で放置されていたので容易に判読できないのだ