ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ユッシ・エーズラ・オールスン「特捜部Q―カルテ番号64―」

特捜部Q ―カルテ番号64― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

特捜部Q ―カルテ番号64― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

いま一番読むのを楽しみにしているのはこのシリーズかも知れないデンマーク発の警察小説、第4巻。1、2巻の頃こそ「デンマーク版“相棒”」といった宣伝がされていたように思うけれど、本書や文庫版などの近刊ではその文言を見ないような気がします。飾り文句など無くとも「特捜部Q」というだけで十分にアピールする不動の人気を得たものだろうと推察しますが、もしも日本のTVドラマ「相棒」みたいなものを(特に、女性ファンが)期待して読むとショックを受けるような展開がままあるシリーズなので、その要素を前に出さない方が親切だろうとは思います。例によってカールとアサドのコンビで動くバディものっぽい作風、社会派的な視線をもつ作品ではあるけれど、今回もまた一番の被害者は女性なんだよな…

例によって時系列の入り交じる構成、今回は2010年の現代の他に1987年と1950年代の3つのタイムラインが交錯します。それでいて決して読み難くないのは展開の妙とキャラクターの魅力か。四半世紀前の連続行方不明事件と、現代デンマークの右翼急進政党党首の秘密結社的犯罪活動を通して浮かび上がるのはあるひとり女性の凄惨な生涯と過去にデンマーク社会が「福祉」の名の下に行ってきた重大な人権侵害で、ページをめくるさなかにもそこらの怪奇小説よりも余程恐ろしい何かを感じるものでした。本文よりも読み終えた巻末にわずか1ページで記されている「この小説に書かれている女子収容所について」がガクガクガクガク (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル もので、ああデンマーク王国共産主義化しなくて本当に良かった(何)

今回もアサド君大活躍でローゼの秘密も少しづつ明らかにされ、「ステープル釘打ち機事件」の謎は深まりハーディのリハビリは進む。訳者あとがきによると著者はこのシリーズを全10冊で予定しているとのことで、この先もしばらく楽しめそうです。

第一作「檻の中の女」は映画化が決まったそうで、それ自体は喜ばしいけれど果たしてこのシャッフルされた時系列を読み解いていく、極めて個人に向けられた面白さが、映画という大人数の観客を前提とする媒体ではどうなってるのか、一抹不安もあり……

もしも映画が日本で公開されたときに「デンマーク版相棒」みたいな宣伝文句を見かけたら、その時はちょっと身構えた方が良いかも知れません。