「ビルマの竪琴」という作品がある。自分は中井貴一の映画を見て原作を読んだ。いい話だし名作だと思うけれども、現実のビルマ即ちミャンマーに、あのフィクションのイメージを重ねるのは危険なのだろうなとは思う。そんなことを考える。そんなことを考えるのは主に古処誠二の一連のビルマものを読んだ時なのだけれど、月村了衛の「機龍警察 白骨街道」を読んで、やはりそんなことを考えた。
いやあ。
ひさしぶりにすごいの読んだなって。
世間様からは2周ほど周回遅れだろうと思うので書いちゃうけど、作中では(現実のミャンマーがそうであったように)軍事クーデターが勃発する。でも執筆時期を考えたらなにそれ未来予知?とか思うところなんですが
決定的だったのは連載中に勃発したクーデターだ。これには参った。
(amazonのリンク先掲載著者コメントより)
そりゃ参るよな。
それでも大筋を変えることなく物語は落着した。いったいどうやったらそんな作品が書けるというのか。現実はどこに在るのか。現実はここに在るのだ。
アウンサンスーチーや習近平といった現実の人名が出てきたのは初めてだろうか?もしかしたら「暗黒市場」*1のときにロシア関係の人名も出てたかな?ともあれ「機龍警察」シリーズが近未来ものでは無くパラレルな現実を舞台にしていて、むしろこれはパラレルですらなく、文学という手法を取って現実の我々が住むこの世界をエクスポートしているんじゃないかな…とか、そんなことを考える。
「この国はね、もう真っ当な国ではないんだよ」
いやまったく。
ストーリーの詳細に関しては余所様にいくつも記述があるでしょう。海外ロケスペシャルのようでいて実は京都とミャンマー、2か所の戦線で特捜部は厳しい戦いを強いられる。一方では敵地での逃避行という冒険小説王道をやりつつも、他方では金融犯罪と国家レベルの汚職事件の捜査をする。警察ロボ物ではしばしば戦闘担当と捜査担当が別々にならざるを得ず*2、しかしこのシリーズは別々の担当者が実に上手く話を回しているなあと、思うわけです。城木理事官ストレス過多で死んじゃうんじゃないかと心配になるぞ。宮近のそれとは天と地ほど差がある。どちらも家族親族に由来するものだけれど。
前々からライザ・ラードナーは沢城みゆきのイメージなんですが、城邑鞠絵は花澤香菜さんですねー。「かげきしょうじょ!!」見たばかりなのでね。
そしてアクション、久しぶりに機甲兵装の激しい戦闘シーンを読んだ気がする。これまでミステリマガジン掲載作品でこんなにロボが戦う話なんてあったんだろうか?SFマガジンの「戦闘妖精雪風」よりも戦闘しているぞ。今回は特捜部の龍騎兵が国内据え置きで、現地調達した第一種・第二種の機体で戦うためにハードウェアのアドバンテージが無い。おかげで緊迫感が増しているのは否めないなあ。じゃあ特捜部の機体は何のために存在するのかと言えば、いずれは陳腐化する技術を、いまはまだ先進的なものとして所持していられる危うさのためにあるのか。それがなければお話は駆動しないしね。
クライマックスに登場するミャンマー国軍の機体が使用する装備が、まるでボトムズのザイルスパイトかあるいはガサラキのワイヤーかコードギアスのハーケンか、ロボットアニメみたいな戦いを繰り広げるのは実に爽快で、アルキメデススクリューというのもメタルギアソリッドのどれかで使ってたしで、実にアニメっぽい戦闘を繰り広げる。そしてこれまでちょっと疑問を抱いていた、なぜ機甲兵装は人間用の火器をほぼそのまま使っているのか?という点にひとついい答えというかギミックを見いだせて、それは良かった。
しかし装甲性能の不足というのは現実にコマツが陸自に納入した試作車輛で発生した問題でもあるのだよな。そのへんの生々しさも良いな。
いかにもオタクっぽい仁礼財務捜査官を一撃で墜とすみどりちゃんも良いな。
良いところだらけである。
いずれ物語の根幹にはアメリカの影が出てくるのだろうと推測しているのですが(なにしろあまりに不自然なほどアメリカとアメリカ人が出てこない。このテーマでそれはあり得ない)、いわゆる「敵」の中核に皇族出てきたりしませんよね?
「敵は海賊」ってあったけどさぁ…
ああそうだ、本作が面白かった方はぜひ古処誠二のビルマものも読んでみてください。きっと面白いと思います。本作のラストシーンは「7月7日」*3のそれを彷彿とさせたんだけれど、「7月7日」自体はビルマものではないんだよな…
書き忘れたので追記。
「十二神将」と「八部衆」はいかがなものかと思います(´・ω・`)
*1:https://abogard.hatenadiary.jp/entry/20140113/p1