- 作者: デイヴィッド・メイス,伊達奎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1996/06
- メディア: 文庫
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著者デビュー作。この作品は初読した当時非常に傑作だと思ったのだが、今に至るも次回作が翻訳されていないところを見ると一発屋で終わってしまったらしい。残念なことではある。
十年ぐらい前、ちょっとしたジョークでミリタリーSF好きの分類、みたいなものがあった。田中芳樹の「銀河英雄伝説」と谷甲州の「航空宇宙軍史」を例えに
それが言われてた頃にはまだなかった言葉だが「ライトノベル」と「そうでない作品」*1を区別する壁のようなもの(?)を説いていたのだろうと、今では思う。てかま、揶揄。
本書は海外SFにしては珍しく谷甲州的な作品で、尚且つどこか日本のアニメ・マンガ的な要素も含んでいる、さしずめ両者の中間的な作品とでも言えるだろうか。
原著は1984年の刊行だそうで、当時はまだエンターテインメントとしてのリアリティが保たれていた「第三次世界大戦」ネタ。と言っても二見書房がやっていたあー、現用の兵器が戦闘するタイプの近未来ではなく、テクノロジーやガジェット的には未来SFの類。「第三次世界大戦」と書いたが正確には「第三次世界大戦後の戦後処理」ネタである。核兵器の投げつけあいで半死半生に陥って、でも滅びない――滅びた方がマシなような――貧乏くじを引かされた世界の、貧乏くじを引かされた場所で、貧乏くじを引かされた人々が、貧乏くじを引かされた兵器で、貧乏くじを引かされた任務に就かされる、そんな話だ。
割とアメリカのエンターテインメントって「世界平和のためなら個人の問題は二の次だ」というような言質を他人に投げかける行為を無自覚にやってる節が見受けられたのだけれど、まあ昔の話で*2今はどうだかちょっとわからないのだが、本書はその行為の気持ち悪さ、怖さを描いていて非常に面白かった。エヴァの最初の頃、シンジ君が無理やり初号機に乗っけられてひーひー言いながら戦闘してたようなノリ、と書けば分かりやすいだろうか*3
「彼をもう一度出撃させても大丈夫ですか?」
「なんだって?」カムフィールドはつま先が床に届くほど、長椅子から身体をずり落とした。
「彼を出撃させても大丈夫ですか?バーバラはデュヴィラールに言った「明日」
医師はぽかんと口を開けた
「あんた、一回だけと言ったじゃないか!」カムフィールドは、顔も首も胸も、血の気を失いはじめた。「一回きりだ!」固く握り締めたこぶしがぶるぶる震えだした。「一回きりだ!」
「どうなの?」
デュヴィラールは困惑気味に肩をすくめた。「そうですねえ、二、三時間なら」
「六十時間だけど」バーバラは言った。
ちなみにこの、半病人を無理矢理死地に追いやろうとするバーバラなる人物が主人公である。登場人物がみな中間管理職のサラリーマンぽいところは多分特徴のひとつで、「谷甲州的」と書いたのはその為である。決して「キャラクター小説」ではないだろう。みなシステムの中に組み込まれた歯車のような存在で、壊れたら棄てる、取り替えられる。
未来戦争SFなのに出てくる兵器が少しもスーパーでもスペシャルでもゴージャスでもなんでもない、どちらかと言うと欠陥兵器や失敗作や、そんなものばかりなのが個人的には非常に良い。原題であり口絵に解説イラストまで載っている「デーモン-4」というロボット潜水艇が主役メカであり、実はロボットではなく人間の脳を用いたサイボーグ兵器*4なのであるが、
……いま、貴方が想像したような欠陥を持っている(笑)
「敵」である自動戦闘要塞も随所に登場してくる動物兵器もみな欠点や失敗を秘めており、なにやら実に不思議ではある。おそらく作者はどこかに「テクノロジー批判」や「組織主義(体質?)批判」を込める意図でこのような設定にしたんだろうと思うが、「万能無敵兵器嫌い」にとってこれほど心躍るSFミリタリー小説は少ないであろう。