森見登美彦「恋文の技術」

恋文の技術

もりみーも色んな版元でいろんな話を書いてるけれど、これはポプラ社から刊行された純然たる恋愛小説。例によって自己の意識とか人生の蹉跌とか自爆の属性とかいろんなものをこじらせた学生が主人公だけれど、、べつに天狗が空を飛んだり狸が引き籠もったりするわけではないので実に一般向きだと思われます。

能登半島（行ったことはないが、本文から察するに地の果てのような場所らしい）に位置する臨海実験所に島流しされクラゲの研究に耽るという憂き目に遭った主人公がいろんな友人知己と文通し、その執筆内容からストーリーが分泌されてくる「手記文学」。という点ではブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」によく似てますねって全然似てねーよ！ともかく例によって例の如く森見登美彦的ドタバタが繰り広げられる中小松崎くんの恋愛は成就しまみやくんはマリ先生に振られ森見登美彦先生は黒髪の美女たちに囲まれ大塚さんはちっとも容赦なく妹は高等遊民になるかもしくは宇宙飛行士を目指すのであった。おっぱい万歳。

だいたいこんなはなし。

だけではないｗ本当に楽しいのは第九話「伊吹夏子様へ　失敗書簡集」でこのパートは投函されなかったラヴレターとその反省が陸続と綴られるとゆー実にこーおとこの熱苦しさ爆発の一章で

能ある鷹は爪を隠す。己が美点の押し売りを慎み、謙虚になろう。そうすれば、聡明な伊吹さんは私の奥ゆかしさを評価してくれる

謙遜しようと努力した。伊吹さんへの恋心も表現しようと努力した。そうすると、なんだか卑屈なヒトになってしまった。いくらなんでも高野豆腐の角に頭をぶつけて死ぬ必要はないと思う。

この恋文の弱点は、読んでいるうちに書いた人間を絞め殺したくなることだと思う。むかつく。心底むかつく。最後まで書き遂げてしまった自分が許せない。

今回の恋文の問題点は、ただ一点に尽きると思う。おっぱいにこだわりすぎなのだ。

今、書いたばかりの手紙に火をつけて、すべて燃やしてしまいたい衝動に駆られている。

俺が恋文を書くと、変態になるか、阿呆になるか、だ。
我が人生には、それ以外の選択肢はないというのか？

｡･ﾟ･(ﾉД`)･ﾟ･｡ ｲｲﾊﾅｼﾀﾞﾅｰ

そんなこんなの七転八倒を乗り越えて、みんながみんなの大切なひとに手紙を書いて、登場人物が一堂に会して京都大文字山から手紙を結んだ赤い風船を飛ばす一大イベントを迎え――

るわけがない。そんな一筋縄でいくようなお話ではないのだ。

思うにひとは文章を書くとき嘘を吐く。必ず嘘を吐く。手紙であれblogであれ、文字は必ずnon-ノンフィクションなのだと思う、だいたいそんなはなし。