ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

シーベリイ・クイン「悪魔の花嫁」

悪魔の花嫁 (創元推理文庫)

悪魔の花嫁 (創元推理文庫)

「グランダンの怪奇事件簿」*1の心霊探偵ド・グランダンのシリーズ中、唯一の長編。今回の悪者は悪魔崇拝教団だ!というわけでアメリカの一地方都市で始まる花嫁失踪事件がいろいろ転がり最終的にはアフリカ大陸、シエラレオネ付近にたどり着くのはキャンペーン・シナリオをプレイしているかのようw作品冒頭、衆人環視の見守る中、一瞬にして消え失せた人間消失の謎がわずか5ページ後に判明するのはいささか驚かされたが、そのトリックがトンデモ過ぎてもっと驚かされた。そうだなこれパルプ・ホラーだったなww

やたらと全裸や半裸の女性が登場し、やたらと陵辱されたり儀式殺人されたりするとこもパルプ・ホラーの王道か。ウィアード・テイルズの表紙絵みたいにベタな扇情場面が次々登場しますが、まあ、所詮は1932年の作品なので、例えモラルから外れるといってもたかが知れた程度のものですハイ。

全編に醸し出される20世紀初頭どころか19世紀的な倫理観、特に植民地に対するそれは実にこう帝国主義的(藁 でそっちの方が気に掛かる人はいるかも知れない。ちょっと違うけど映画「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」のラストに感じたような種類の違和感が奥歯に挟まるか。世界各地のてんでバラバラな秘密宗教結社・部族をその垣根を跳び越えてアンチ・キリストに団結させようとする陰謀はまるで昨今のアルカイダを彷彿させるような設定だけど、その元締めは無神論と革命思想が闇鍋のように溢れたロシアからやってくるのであったうひゃー!西欧世界大ピーンチ!!

あと創元のこの手の本にしては珍しいんですけど、表紙絵がコテコテに描写される黒ミサの光景、まさに本編の一場面を描いてます。本文中でヒロインのアリスさんまさしくこーゆーカッコウにされるんでありますイヤン(///)

ストーリー展開のみならず、文章そのものが非常に読みやすい。“テレヴィ”大瀧啓祐大先生の訳文にしては珍しい事この上ない!などと感嘆したものだけれど、考えてみれば大瀧大先生がやっているのは原文のスタイルをどうやって日本語に反映させるかという作業なので、もとが読みやすい文体ならば当然のこと訳文だって読みやすくはなるのだ。それでもやっぱり

次の瞬間、素早く立ち上がり、足につけていたホルスターからブラウニング(ブローニングはローマ字読み)を抜いて、闇の中に発砲した。

なんて箇所があってテレヴィ先生絶好調ですね!

あいかわらず大先生他人の仕事に興味も関心もないようで、資料的価値が非常に高いあとがき解説を読んでも短編集“The Phantom Fighter”が既に邦訳されてることはひと言も触れられてない。触れられてないけど…

ラヴクラフトとハワードとスミスを『ウィアード・テイルズ』の黄金時代を築いた御三家と呼ぶのは、同誌を読んだこともない人たちの決めつけに過ぎず

微妙に敵意が内在してる気がするwやっぱ絶好調ですね!!

まあなんだな、今読んじゃうとだな、留置場に入れられたりその後死刑に処されたりする筈の悪漢が、「何故か」堂々と行動して悪事を働き続けられるのは実は!・・・でした。とか、悪者懲らしめるためなら法律も警察もなんでもねじ曲げるぜ、正義だからな!みたいな展開には若干辟易するし、仮に80〜90年代に紹介されてたとしても当時のの日本社会特にオタク層には受け入れられなかったろうなーとか、思ったり。ルイス軽機関銃があればばんぞくみなころころしちゃう。のはグループS○E全盛期には辛いよね。

そんでamazonでは「シーベリイ・クイン」と「シーバリー・クイン」は別著作者として扱われてるんだな。デジタル社会の弊害かなーうーん。*2

*1:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20090714

*2:Seabury Quinではちゃんと引っ掛かる。原語第一主義かー。