ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

古処誠二「ふたつの枷」

ふたつの枷

ふたつの枷

四編からなる短編集。「線」の時*1ほど地域や部隊の一貫性は無く、初出誌も一定ではないので「連作」という形ではないのか。しかし収録作品に「ふたつの枷」というものはなく、それが主題なのだろうな…。

戦時下で枷がふたつ、といえばなるほどあれとあれなんだけど、どうも言葉にすると薄っぺらになりそうでなかなか書けません。困ったもんだな。

――つまりな、この島はどうしてもアメリカに渡せない島だということだ。
 わたしは下士官の嗅覚というものに改めて思いをはせました。他でもない、わたしが属していた補給中隊こそが長期自給方針の証拠だと班長殿は言うのです。
 班長殿の言葉は淡々と続きました。補給中隊は兵団のすべての歩兵連隊に付属している。しかし、そんな例は寡聞にして知らない。支那では特設師団もあったし、独立混成旅団も多かったが、任務も編成目的も曖昧な部隊などひとつもなかった。補給中隊とは言いながら、何かしらの器材を持っているわけでもない。補給物資を携行しているわけでも管理しているわけでもない。では、その名はどこに由来しているのか。
――お前ら自身が補給内容だってことだよ。
(略)
――分からないか、簡単に言えば、お前らは人員補給中隊だということだ。

まったく生きるも死ぬも枷ばかりです。