- 作者: ジュール・ヴェルヌ,榊原晃三
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1995/03
- メディア: 単行本
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ジュール・ヴェルヌが未だひとりの新人作家であった35歳の折り、1863年に執筆された「100年後のパリ」を描いた作品。出版は成されず永らくタイトルだけが知られていた幻の作品が1991年になってようやく草稿が発見され、陽の目を見ることになったのだそうだ。
未来予測とか予言とか、そのような観点から作品解説されているけれど、19世紀の人間が持つ視座とそこからの展望で良いんじゃないかって気がする。話は全然違うけれど「レオナルド・ダ・ヴィンチは戦車を発明しますた!」と言われてもその、困るよな…
実利と営利優先で学問と芸術が消滅していく世界、機械文明に対する警句。未来小説なんて大抵そんなもので(と言うとヒューゴー・ガーンズバック大先生が激怒されるでしょうが)ごくごくぬるめのディストピア小説とでも申しましょうか。草稿は曾孫の家に伝わっていたブロンズ製で重さ900キロの大金庫、鋼鉄とコンクリートで装甲されたものに隠されていたそうなんですが、かの大作家ヴェルヌをしてここまで厳重に秘匿せねばならない理由がありまして、肝心のお話しが つ ま ら な い の で す 。ええもう、どうしようもないほど(w;
もはや二十世紀のパリに於いてはだれも顧みない「ラテン語」の一等賞(学位?)なんてシロモノを取って卒業し社会にでたミシェル君がまー安手の理想論だけを武器に恩師を得たり有意の友を得たりしながら拝金主義の蔓延する世の中に少しも立ち向かえない、だいたいそんな話。
(´-`).。oO(いつの時代も文系オタとリア充は敵対するものなんだなぁ)
とか、変な意味ではすごく笑える作品なんですけど。
19世紀フランスの文学者・哲学者を片端から軍人になぞらえ称賛*1していく「一九六一年四月十五日、日曜日。ユグナン叔父のフランス文学概説」の章と、女性はもはや絶滅した種族だ!いま存在してるのは全部俺の好みじゃないタイプの女だ!!などとエラい手前勝手な女性観を堂々と主張する友人キャンゾナス君が傲慢すぎる「キャンゾナスの女性論」の章*2はかなーりヒステリックな笑いがこみあげてくるんだぜ?
この作品でもヴェルヌ先生いろいろ未来のテクノロジーも描いてるんだけど、月に砲弾が飛んでいったりプロペラの生えた船が空を飛んだりは全然しない。思うに先生、将来自分がどんな小説を書くかは予見できなかったんじゃないかなw
しかし社会予測はちゃんとある、ヴェルヌは本作で――
「(略)ところが、まさにこの新聞に対する熱狂そのものが、やがて新聞の死を招くことになった。それは、書き手の数が読み手の数より多くなってしまったという、のっぴきならぬ理由からだった!」
「批評の第一人者が何人もいた!あり余る才能、売ってやれるほどの才能を持つ者たち!(略)新聞の記事で名指しで批評された者はだれでも、その同じ新聞紙上で、同じ行数で、返答する権利を有することになったので、戯曲、小説、哲学書、歴史書の作家たちがいっせいに批評家に反駁し始めた(後略)」
今日のネット論壇を予言してたんだよ!マジ!!!!
うわぁ、俺だんだん二十世紀がやってくるのが楽しみになってきたぞ。(モウコネーヨ)