ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ロード・ダンセイニ「二壜の調味料」

二壜の調味料 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

二壜の調味料 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

恥ずかしながらダンセイニ卿がこれほどカッチリした構造の「探偵小説」を著していたとは知らず、新鮮な驚きを得る。全26編中9編は同居人スミサーズの語りによる名探偵リンリーの活躍を描いたシリーズもの。その他の作品群も当時の現代社会――というか現実世界の――英国を舞台にしたミステリー小説集で、巻末に掲載された「アーテナーの盾」を除いてはマジカルな要素は全くない。が、やはりあるのだ、マジカルな様相は。現代の社会に、現実の世界に、そこに蠢く人間の心理や行動に。謎と秘密、真相が解明されても尚明らかにされない何かがあって、それをして「奇妙な味わい」と言わしめるのかも知れないな。表題作を始め結末の一語、最後のセンテンスが異常なまでに効果的なところは流石ダンセイニ卿。何処かへ突き放されるような、隔絶する壁を打ち立てられるような、そういう感覚を存分に楽しめます。

ことリンリーのシリーズに絞って言えば、探偵小説としてはいわゆるワトソン役を務めるスメザーズの人物像が卑小すぎてちょっと笑ってしまう。なかなか気がついてもらえないし発言しても無視されるしで気の毒w いくらリンリーが身分の高い出身だからってひとつのフラットを折半してる人間が玄関ホールにベッド置いて生活してるとか、使用人じゃないんだからww そもそもこのスメザーズの本業は「肉と塩味料理専用」の調味料を売り歩くセールスマンでそれが事件解決の手助けになったりはするのだけど、その肝心の「ナムヌモ」なる調味料の正体がシリーズ通じてまったく明かされないのは極めて謎である。やはりマズイのだろうか…w クロスワードパズルを基に真犯人を見つけ出しても、裁判では証拠不十分で無罪に終わる話があったりでいわゆる推理小説ともちょっと違う、なんだか独特の雰囲気。

ノン・シリーズの作品はバラエティ豊かで「ラウンド・ポンドの海賊」はこれドラえもんの「ラジコン大海戦」じゃん!とか「消えた科学者」の豪快な解決法に驚愕とか、う〜んやっぱりダンセイニ卿はお茶目な人なんだなと、思わされた次第。

「完全に明白な事件だ。それが依頼人の事件だ。君の読んだ書類はもちろん秘密にしておいてもらわなければ困るが、この事件に関する被告の供述書だ。弁護側の主張はすべてこれにかかっている」
「しかし、真相は何なんだい?」わたしは尋ねた。
「ああ、真相か」彼は言った。「それは陪審員の評決次第だな」

*1

…多分ダンセイニ卿はなにか物事が「解決」するとか、そーゆーことにはあんまり関心無かったんじゃないかなと、そう思うんだ(・ω・)

*1:「ネザビー・ガーデンズの殺人」より。これはノン・シリーズの作品。