ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ベン・H・ウィンタース「世界の終わりの七日間」

世界の終わりの七日間 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

世界の終わりの七日間 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

「地上最後の刑事」シリーズ三部作最終巻。小惑星マイア落着までいよいよ一週間、ますます荒廃していく世界と人々の姿を描く。

キリスト教の教義では世界では六日間でつくられ七日目には安息が訪れるものだけれど、この作品にもそういう意味合いがあるのかな?ここにきてアーミッシュの人々がクローズアップされるとは思わなかったので、それはちょっと意外。
今回のメインは妹のニコの行方を追うことで、主人公ヘンリー・パレスの立ち位置は刑事でも探偵でもなくきょうだい、家族的なそれだ。「家族」のあり方はこのシリーズで何度も描かれてきたことで、訳者あとがきでもそのことについては大きく触れられているけれど、やっぱりこのお話はミステリー小説で、妹を探し続けたパレスが出会うのは殺人事件とその解決、だったりする。聖杯探索者が見つけるものとしてはよくあることかも知れないなあ。

そうね、ある種の推理小説は聖杯探索なんだろうね。そこで得られた結果にどんな価値があるのかは、探索者の価値観次第なんだ。

法も世論もないなか、第三者による客観的な承認もない中で、パレスは容疑者を追い詰め尋問し、真相を解明する。でもそれは本当に真実なのか?真相なのか?真理なのか?果たしてそれは証明された事実だと言えるのか?

個人が主観的に納得できればそれが「真実は常に1つ」なのだというのも、古今いくつかのミステリー小説が説いていることでもあります。ある意味「地上最後の刑事」シリーズは、ミステリー小説の壮大なパロディだったのかも知れない。

ラストシーンではパレスは真実を知らずに過ごしてきたアーミッシュの集団の中で、唯一事実を知っている少女*1と心を通わせてそのときを迎えます。「真実」を知っていることでなにか優越感を得られるものかといえばそうでもない。けれども「知っている」と「知らない」ことには大きな違いがあって…


この終幕をどう考えるかは、たぶん読者の価値観次第なんでしょうね。

第一巻で思わせぶりに出てきた政府職員のモトカノがその後出番無しだったのは意外だけれど、政府の陰謀もちゃんと暴かれる、よいシリーズでした。

*1:ホントはもうひとり気づいているオッサンもいるのだが、話の流れ上割愛w