ようやく見ましたアニメ版「氷菓」。いまだにキャラクターデザインには慣れない感がありますけれど、劇場作品のようにクオリティの高い映像に息を飲む。多少の違和感は抜きにしてこれは見ておいて損はないといやむしろ見ないでいることが損であろうと、第一印象としてはそんなところか。
既に発表されているキャラクター・キャストの一覧にはシリーズ第一巻「氷菓」以外の「愚者のエンドロール」や「クドリャフカの順番」で登場する人物もあったのでさてアニメ版古典部シリーズはどんな構成になるのか興味ぶかあーいや、「わたし、気になります!」だったんですけど(笑)アニメ第一話「伝統ある古典部の再生」Aパートでは第一巻冒頭の鍵の掛かった 地学講義室 地学準備室*1の謎を普通にやって、しかしBパートでは第四巻「遠まわりする雛」収録短編「やるべきことなら手短に」を挿入している。丁寧に時系列に合わせた再構成をやってる訳ですね。シリーズ構成はフルメタの賀東昭二が手掛けていると聞いていたので、ひょっとしたらアフガニスタンから転校生がやってくるような超展開でもするのかと内心不安でありましたが、んなこたーなかった(苦笑)
いわゆる「日常の謎」系統のミステリー小説はそれこそ北村薫以来様々な作家の様々な作品が発表されていますが、あまり映像化された例を聞きません。どうしても「画」としては地味な物になりがちであると、そんな弱さがあるからでしょうか?その点アニメーションの技法は実写よりも向いているようで、折木奉太郎の心情・心理描写が自由闊達に描かれる演出はなかなか魅せるものです。「心理描写は実景をそのまま描いている訳ではない」とちゃんとわきまえておかないと千反田えるがギアス能力者みたいに見えるかも知れませんが(笑)
実際、良くできている(どころの話ではない)アニメーション、小説原作と言うことで文字活字に重きを置いた映像になってるのも好感を覚えます。が、やっぱりその、これまで原作にずいぶん入れ込んで読んできたクチとしては、「地の文」で語られるキャラクターの心理と「会話文」で発せられるキャラクターの行動の差異を、例えばチャンドラーのハードボイルド小説を読むかのように楽しむことがこのシリーズ最大の魅力だと思うので、その点はアニメはちょっと弱いかなー。マンガの方はどうなんでしょ?
古典部シリーズに限らずですが、米澤穂信の作品は本格ミステリーの様式に対する自覚的なパロディのような一面を持つことが多いです。今回アニメ化された短編「やるべきことなら手短に」を例に取るならば、その面白さはいわば「理屈と膏薬はどこにでもくっつく」という、折木奉太郎の(適当な)推理がいかに筋道が通って聞こえるか、ミステリーとしてのいかがわしさ*2を経た上で、彼が千反田えるとの関係性に戸惑う様子を青春小説らしく楽しむ構造になってます。小説ではキモとなる会話の応酬による説得と言いくるめはさすがにアニメの方では控えめで、でも一般生徒たちの純粋なバイタリティが溢れる掲示板を目の前にして圧倒される後ろめたさの表現はアニメーションらしい良さに満ちていて◎
結論としてはですね、氷菓は原作もアニメも高く評価できるので、アニメを見て面白かった方は是非是非原作の方もどうぞ!と叫んでおきます。アイス食いたい。
- 作者: 米澤穂信,上杉久代,清水厚
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2001/10/31
- メディア: 文庫
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元々ライトノベルのレーベルで始まって一般文庫にいわば「格上げ」された作品が、今ではアニメの帯(カバーに非ず)付けたキャンペーンで売られてるんだから、考えてみれば面白いよな。