トウェイン完訳コレクション 不思議な少年44号 (角川文庫)
- 作者: マーク・トウェイン,影山徹,大久保 博
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/08/25
- メディア: 文庫
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もともと岩波文庫版の「不思議な少年」asin:4003231112を読んでいて、トウェインといえばトム・ソーヤーとかハックルベリ・フィンとか牧歌的なイメージしか持ち合わせてない自分*1にはとって結構な衝撃でお気に入りの一冊だったものが「トウェイン完訳コレクション」の一環として出版され、あまつさえ訳者あとがきに
この作品の最初と最後の数ページだけが非常によく似ている作品で原題を(略)と称するニセモノが、一九一六年いらい八十年近くものあいだ、マーク・トウェインの作品として一般読者をダマしつづけてきました。そしてこのニセものを底本とした翻訳が我が国でも四点ほど有名な出版社から出ております。
などと書かれては穏やかでいられない(苦笑)出版・刊行過程は岩波文庫版のほうが親切に書かれていて結局のところトウェイン没後に見つかった未完成原稿をどのバージョン、どの順番で編集したかで似たような話が複数(三種)存在している…と、いうことだそうな。その中でも本書「不思議な少年44号」は最もボリュームが大きく最も編者の手が加わってない純粋に近い形の草稿なのだそうだけど、結局のところどのバージョンも編集者が無理やり付けた唐突なオチは変わらんのだな。
岩波文庫版の「天使サタン」と比べて「44号、ニュー・シリーズ864962」とただ番号でしか名前を持たない角川文庫版のほうが不思議な少年の不思議度合いは増している。それは実に魅力的である。けれども人間社会の欺瞞や偽善、迷信や虚飾を暴き立てる寓話としては岩波の方が面白いなあ…。
どちらの作品も結末はゼーガペイン#6「幻体」と同じタイプのアレなので、セレブラントの皆さんにはオススメです。
そしてたったいま知ったんだけど「不思議な少年」ってマンガになってるのか!ビクーリ
- 作者: 山下和美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/10/23
- メディア: コミック
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ちょっと興味がわきました。日本人スゲェなあ。
<追記>
結局岩波文庫版「不思議な少年」読みなおしてしまった。やっぱこっちのほうが面白いw と、いうより構造が似ているだけの別物か。
サタンは冷たい笑いをやめると言った。「とにかく、たいした進歩だよね。たった五、六千年間に五つも六つもの高度文明が起こってだよ、それらが栄えて世界を驚倒させたかと思うと、たちまちまた衰えて消えていった。だが、現在のこの文明以外には、まだ大量殺人のうまい方法を発明したというのは、一つとしてなかったわけだよね。もちろん人類最大の野心というのは人間を殺すことであり、現に人間の歴史はまず殺人をもってはじまっているわけだし――それぞれみんな懸命の努力はしてきたさ。だけど、その意味で誇るに足る勝利を記録したのは、キリスト教文明ただ一つってことさね。もう二、三世紀もすれば、もっとも有能な殺し屋ってのはキリスト教徒だけってことになるんじゃないかな。そうなれば、異教徒たちはみんなキリスト教徒に弟子入りすることになるよ、きっと――それも宗教を教わることじゃなくて、人殺し機械をもらうためにね。トルコ人もシナ人も、宣教師や改宗者を殺すために、そうした兵器を買いこむことになるよ、きっと」
とても第一次世界大戦の前に書かれた小説とは思えませんね。