ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

モーリス・ドリュオン「みどりのゆび」

これもまた岩波少年文庫で長く愛されている名作。おとぎばなし、幻想、絵空事、夢、希望、たぶんそういったことが濃縮されているタイプのファンタジーなんだろうなあ。あとがきにあるようにフランス産の児童文学として「星の王子さま」と似たものを感じるけれど、サン・テグジュペリよりはもう少し直球でわかりやすくはある。或る裕福な夫婦のもとに生まれた利発な男の子が、指先で触れたところにいくらでも植物を育て花を咲かせることが出来るという「緑の指」のちからをつかって世の中を幸福に作り変えていくお話。その花の咲くところ刑務所の囚人は皆元気になり、病院の患者は健康を得、動物園は野生の楽園と化し、戦場は平和となる。やがて少年は自らヤコブの梯子を拵えて世を去り、昇天してしまう。

子供は大人の思うようには考えないし行動もしない。というストーリーだけれど、そういう子供を描いているのも大人の主観であって、子供のキャラクターを使って作者の policy を説くタイプのお話しではあります。案外子供の方が、花が咲いたぐらいで問題は解決しないだろうと、例えば10代も後半の読者になれば思うかもしれないけれど「花が咲いたぐらいで問題は解決しない」とつくづく思い知らされた歳になると、こういうものは一周まわって楽しめますねえ。ファンタジーってそういうことです。裕福で善良で息子思いの両親が軍需産業の経営者で、我が子のもたらした奇蹟の結果古い考え方を捨て《せんそうはんたいを花で》と掲げていくことも、そんなこと現実には起こらないとわかっていれば、それは楽しい空想なんです。寓話ですらないそういう読み方は、たぶん作者や翻訳者や出版社各人の願うことではないだろうけれど。

ところで主人公の名前が「チト」なんだけど、チトと言えばやっぱり四式中戦車のことですよね?そんな読み方をする読者になってはいけませんぜ皆さん(´・ω・`)

馬がなみだをながすときは、気をつけなければいけません。いつでも、そこには重大なわけがあるのです。

この一節は良いなあ。何かに使いたいものです。