ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

若菜晃子編著「岩波少年文庫のあゆみ」

カテゴリーに困るけれど、岩波少年文庫創刊70周年を記念して刊行された、いわばガイドブックで、史料的価値の高いものではあります。この分野にはさすがに疎くて本棚には「星の王子さま」ほか2冊ぐらいしかないけれど、児童書の文体や内容については知っておきたい気持ちもあるのでなんとなく読んでみたら良い本で、良い内容でした。岩波少年文庫の刊行は副題にもある通り第二次大戦終結後の1950年のことなんだけれど、その前身となる企画は戦時中に立ちあげられ、戦時下の統制で中止に追い込まれている。戦後の復興に併せて年少の読者に向け、善いものを作ろう、善い本を広めて行こうという意気込みは「発刊に際して」に力強く述べられているのだけれど、創刊50年を経てあらためて紡がれた「新版の発足に際して」もまた、力強い言葉で現代における本と読書のもつ意義、意味を説いたものであり、有り体に言ってちょっと感動しちゃったんだな。創刊から今に至るまでの歴史、著名作品の解説、関係各者の様々な文章(抄録も多いが)等、本文庫のもつ多彩な特色を紹介する内容です。

興味深いタイトルもいくつかあるし、ここからいくつか読んで行きたいところだけれど、さて今読めるのはどれなんだろうなあ。

 「子どもに向かって絶望を説くな」ということなんです。子どもの問題になったときに、僕らはそうならざるを得ません。ふだんどんなにニヒリズムデカダンにあふれたことを口走っていても、目の前の子どもの存在を見たときに、「この子たちが生まれてきたのを無駄だと言いたくない」という気持ちが働くんです。

宮崎駿

 サン=テグジュペリのフランス語にはリズムの美しさがある。日本語の訳文からも、それを感得させなければならない。

 妻の話によると、父は原文と口述訳文とを比較音読しながら、原文のリズムを訳文に移す試行錯誤を重ねた。一節一節をああでもない、こうでもないと、わずか一行に半日かかることも稀ではなかった。

内藤初穂

 古典の新訳はいいことです。おかげで、グリムもゲーテもドイツより日本で多く読まれています。自国作品の現代語訳は稀で、数種類もの訳となると、日本でも『源氏物語』ぐらいでしょう。翻訳によって現代語訳を読む外国人読者は、古語を読むしかない本国人より有利なんです。

池田香代子

 しかし、そのような時代であるからこそ歳月を経てなおその価値を減ぜず、国境を越えて人びとの生きる糧となってきた書物に若い世代がふれることは、彼らが広い視野を獲得し、新しい時代を拓いていくために必須の条件であろう。

岩波少年文庫創刊五十年――新版の発足に際して)

色々感銘を受けた言葉をそのまま並べてみる。良い本というのは、善いものですね。

そしてちょっと前にツイッターで「本格ファンタジーとは」みたいなことを言っていた人たちの視野に、果たして児童文学は含まれていたのだろうか?てなことを思う。

それでまた、アニメ化や映画化された作品も数多いんだけれど、そういうことには一切触れないのがなんていうかな、矜持なんだろうなあって思うわけです。