ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

スコット・ディヴィッド・アニオロフスキ編「ラヴクラフトの世界」

ラヴクラフトの世界

ラヴクラフトの世界

最近(といってももう5年も前だが)翻訳された現代アメリカ作家によるラヴクラフト系恐怖小説アンソロジー。原著は1997年刊行。原題を“RETURN to LOVECRAFT COUNTRY"と言って主に場所、地縁をテーマにしたような作品が主となる。全15編、ボリュームのある作品も散見されて文庫本としては厚めの一冊。

内容はまあ、玉石混交かなあと思う。訳者である大瀧先生も作品解題ほとんど行わず巻末解説ページのほとんどは「最近見たラヴクラフト原作映画の感想」である。これはこれで大瀧節全開で実に楽しい。多少鼻白む方も多いであろう文体がだんだんと快楽になっていく様は実にテレヴィぽくはあるのだ。「ラン・チェイニイ・ジュニア(でたらめな慣用表記ではロン・チェニー)」なんて表現を見ると頬がゆるむねえ。

作品に戻るとその大瀧センセがふたつだけ解題やってるJ・トッド・キングリア「ファン・グラーフの絵」とT・E・D・クライン「ポーロス農場の変事」は確かに面白い。解題されないと判り難い怖さもある。しかし相変わらず何かを説明する際、常に誰か他者を人格攻撃しているような筆致になるのはなぜですかテレヴィ

アメリカ人らしい作品は多くて、アーミッシュのような閉鎖されたコミュニティを題材に取るものや70年代的ドラッグカルチャー・コミューンであるもの、さらには「ダンウイッチの怪」*1と処女受胎を絡ませたようなものなど、いかにもアメリカ人らしい解釈のクトゥルフ神話で日本人では浮かばないようなアイデアに満ちています。

…それが面白いかどうかは別として(w;

「ベタだなぁ」と思わされたのがまあ、多いわな。ウェイトリィ家の子孫がうんぬん、ユールタイドがかんぬん。「イエロウ・キング・バー・アンド・グリル」って目にした時は失礼ながら爆笑しました。ここはむかしレッド・フック街だったんだ!なんだってー(棒 とか、だいたいそんな感じだな。しかし最もベタで一番コテコテな作品を乗せているのは何を隠そうリン・カーターである。我々は何度「遺産相続人が血筋を明かすと雑貨屋の主人が顔面蒼白になる」さまを見せられてきたことか。


重度なクトゥルフ好きには(かなり、変な意味で)おススメですが、そうでない人には居心地の悪い片田舎に紛れ込んだような気分になるかも知れないですね。

ピーター・キャナン「アーカムの蒐集家」のオチがよくわからないんだけど、どうしよう。わからない故に不気味ではあるのだけれど。

*1:もちろん我らが大瀧センセは終始一貫して「ダニッチ」である