- 作者: ジェデダイア・ベリー,黒原敏行
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/08/30
- メディア: 文庫
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創元推理文庫のミステリー枠(M類)で刊行された純然たる探偵小説…とはいえ相当異色な作品で、原書は欧米ミステリー小説界で代表的なアワードの一つハメット賞を受賞しているほかにもSF分野のローカス賞にエントリーされたり、著者ベリーはこの処女作品でファンタジー分野の新人賞を受賞している。狭い枠にとらわれない、ジャンル横断的な小説作品。
名もない都市の巨大な「探偵社」でしがない記録係を務めるチャールズ・アンウィンは、ある朝突然探偵への昇進を言い渡される。自分が記録係を担当していた都市一番の名探偵、トラヴィス・シヴァートが行方不明になったその空席を埋める為という我が身に沿わぬ地位に抗議を申し立てに上司の下に出向けば彼は「探偵社」内のオフィスで絞殺死体となって発見される。自身に降りかかった容疑を晴らす為にも、アンウィンは教条的な「探偵術マニュアル」と眠り病の助手を相棒にシヴァートの行方を捜す捜査を始めるが…
概枠を書けばこんな感じかなあ、いくつか落としてる要素もあるけれど。どこかカフカ的な舞台設定の中をアンウィンと共に彷徨えば、浮かび上がってくるのは「名探偵」や「大犯罪者」の虚構性と不在で、映画「インセプション」よろしく他人の夢の中に入り込み、現実と幻想、過去と現在を混在させつつ「事件」とその解決を称揚していく様はまるで押井守が作る(はずだった)ルパン三世みたいだね。
読んでてどこか「スペシャリストの帽子」*1を思わせる既読感を得たんだけれど、訳者あとがき読んだら著者ベリーは「スペシャリストの帽子」の作者ケリー・リンクの下で編集やってた経歴があるのだとかで関連性はあるみたいです。
正直読みやすい本ではないのであまり広くはお勧めできない(珍しくもう一度読み直してから感想書いてる)んだけど、ちょっと毛色の変わった探偵小説として、ユニークな一本ではある。
眠り病持ちの助手エミリーが可愛いキャラなんだけど、結局アンウィンのファム・ファタールは作品冒頭から登場し各所で重大な働きをする「チェック柄コートの女」で、ラストではエミリーとアンウィンの進む道は全く異なるものとなってしまうのが、残念と言えば残念かな。多くのキャラクター達が謎や秘密を隠していてうっかりしていると突然の立場の変転や真実の吐露を読み飛ばしてしまいそうになるのだけれど、再三出てくる謎の人物「ブロンド顎ひげの男」って結局何者だったんだろう…