ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」

たんぽぽ娘 (奇想コレクション)

たんぽぽ娘 (奇想コレクション)

河出書房新社奇想コレクションはこれが最終巻となるのかな?刊行案内以来しばらく時間が過ぎましたが、漸くに読めました。アンソロジーとしては新規に編まれた日本版オリジナルな内容だけれど、表題作についてはもう何度も読んできました。初読はまだ10代の頃で、創元推理文庫ジュディス・メリル編「年刊SF傑作集 2」asin:B000JA9SHWで読んだかなーと思う。作品の存在自体は実はホビージャパン誌の読書コーナーで知ったもので、80年代後半のホビージャパンには随分といろんなことを教えてもらったものです。

流石に四半世紀以上経っているからねえ、初読の頃とはまた感情移入の仕方が変わっている(だろう)けれど、いいお話しですよ「たんぽぽ娘」。タイムトラベルとロマンス、一般社会のモラルから外れそうでいて、決して外れないところに落着する。10代に読んでも良いし40代に読んでも良いでしょう。

日本でヤングの作品といえば短編集「ジョナサンと宇宙クジラasin:B000J8U2ZGが長く好まれていて、それと同様に本書も如何にも日本人が好みそうな作品、純朴さや誠実さに満ちた「古き良きアメリカ」的な社会観の作品がいくつもあります。ブラッドベリ的と言って良いのか、時間旅行ものが多く見えるのはやはりヤング個人の作風なのかな? 近年のSFマガジンに掲載があった作品もありますが初見のものでは「荒寥の地より」が良いですね。

ヤングの作品はどれも(「時の娘」*1に収録されている「時が新しかったころ」なんか顕著ですが)異様なまでに濃厚なノスタルジアに溢れています。一端母国での発表からタイムスパンを置きさらには「翻訳」というフィルターを通して見ている自分にとってはそこにある欺瞞も含めてファンタジーなんだけれど、当時のアメリカの読者は、あるいはヤング本人は、一連の作品に潜む嘘臭ささと胡散臭さをどこまで自覚していたのかなと、そこは少し気になりました。本書の面白いところはそういうことを気付かせてくれる、ちょっと暗い視点の作品がいくつか含まれているからで、これまで紹介されてきたヤング観に少しばかり修正を加える必要を感じました。

巻末の「編者あとがき」と著者小史は短いながらも労作で、この作家の作風や人生について新しい知識を多く得られました。太平洋戦争に従軍し戦後は日本に進駐していたこと(名古屋でMPやってたんだってさ)、それ以外は生涯ほとんど故郷から離れずに過ごしたこと、短編に比べて長編はいまひとつなこと。そしてこのひと


真性じゃねえか!Σ(゚Д゚)ガーン


ってことです。なにが真性かってそりゃもちろん「たんぽぽ娘」に代表されるタイムトラベル物の多くが指し示しているように真性のロマン主義者で且つどうしようもなく小児性愛者だってことなのです…

現在「たんぽぽ娘」はこのアンソロジー以外にも本作のみを美しい挿絵付きで装丁された復刊ドットコムの単行本asin:4835449479がありますが、純粋にロマンスを楽しむならそっちの方がいろいろと綺麗なままで居られるかも知れません(笑)