中村融・山岸真編集による年代別傑作アンソロジー第4巻。先日開催された第2回SFカーニバルのイベント「サイバネティック・アバターが生み出す身体の選択肢〜SF作品と最新研究で語る未来〜」で表題作が採り上げられたので読んでみました。もう50年の前の作品なんだってさ!実は10代のころにも一度、たしかハヤカワの「愛はさだめ、さだめは死」で読んでいるのね。そのときでさえ発表から20年は経っていたのに「いま読んでも面白いなあ」と思ったものだけれど今回再読して「いま読むとさらに面白いなあ!」になりました。こりゃ傑作です。50年経って「いま」の有り様は随分変わっているのに、作品は不変のままに価値を保ち続ける。むしろ価値は上がっている。こういうものを「不朽の名作」というのでしょうね。それだけジェイムス・ティプトリーJrが(あるいはアリス・シェルドンが)作品を通じて指摘して見せた世の中の歪みが、例えどれほど「いま」が変わろうとも、やはり不変なまま在り続けているということなんだろうか?しかしやっぱりペルソナを被りモニタ越しのコミュニケーションが広がり、マーケティングに忌避感を抱きながらインフルエンサーの声には耳を傾けるいまだからこそ、本作は読まれる意味があるんじゃないだろうか?一人の女が社会に利用され殺されて、愚かな男は愚かなままに社会の中枢をのし上がっていく。醜いアヒルの子は、結局白鳥にはなりませんでした。苦い話です。「いま」が苦いのは、確かにいつの時代も変わらないもんね。
その他名作傑作ぞろいだけあって既読作品も在るんだけれど、ジーン・ウルフの「デス博士の島その他の物語」、ジョン・ヴァーリィ「逆行の夏」、クリストファー・プリースト「限りなき夏」はいずれも初読時よりも内容をよく理解し楽しめたように思う。どの作品も初読は各著者の「短編集」で見たものだけど、今回「アンソロジー」という形で、且つ明快な紹介文をまず見て読んだことがよかったんだろうな。初読の中ではフリッツ・ライバーの「あの飛行船をつかまえろ」が良かった。「九〇年代に隆盛を見た改変世界ものの見本のような作品」然り、然り。