「時の娘」*1に次ぐ時間SFアンソロジー。あちらが「ロマンティック時間SF傑作選」であったのに対してこっちは「ファンタスティック時間SF傑作選」で、話の幅は広い。とはいえ著者表記に選出されているロバート・F・ヤングはいつもどおりの恋愛メインです。
そのヤングの「真鍮の都」は恋愛メインはいつものことながら今回は結構乱暴なお話*2で、この人たぶんディティールや設定を重ねないほうが良いんじゃないかなーと、そんなことを考えた。「たんぽぽ娘」が傑作であったのはストーリーの精髄以外は特に飾り立てるものがなかったことが、それが功を奏していたのではないか…と。本作は後に長編化されているそうだけど、話を脹らませると却って瑕疵が広がるような気がします。「時が新しかった頃」の長編版[asin:4488748015]はどうなんだろ?
L.スプリング・デイ・キャンプの「恐竜狩り」はタイトル通りタイムマシンで恐竜を狩りに行く話し。中村融はホントにウルトラQが大好きなんだなーと、それは何度も思ってきたけど、この作品もかなり恐竜というか怪獣というかまー特撮風味ですな。お話自体はこれをこのままアフリカ大陸でライオン狩りにしたって(ラストのオチ以外は)ほぼ通るようなベタな話なんだけど、作品が古いだけに恐竜の描写が現代の古生物学とは違っていて懐かしい感覚である。こころのタイムマシーンとでも、その。
巻末に掲載されているT・L・シャーレット「努力」は過去を自由に写し出す装置を使って超大作の歴史映画を作って一攫千金ボロ儲け…なお話がどんどんと広がって、人類に戦争放棄と平和な社会の構築とを訴える社会派な展開、その結末が非常に印象に残る。藤子不二雄の異色短編集でタイムテレビを扱った作品があったけれど、ひょっとするとこれが元ネタなのかな?作者自身はほぼこの短編のみのいわゆる一発屋で、しかしこの作品は歴史に残る価値がありそうです、いいねぇそういうの。
その他マイケル・ムアコック、フリッツ・ライバーなど収録作品はすべて初書籍化なものばかり。なかなかに面白いアンソロジーでした。
最近のものが含まれないのは、編集方針上仕方ないのかも知れませんが。
*1:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20101104
*2:暴力的という意味ではない