- 作者: 谷甲州
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2013/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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太陽系内での建設・開発工事をテーマにした「土木SF」とでも言うべき連作短編集。元々は1984年に「小説奇想天外」誌に掲載され同誌の休刊と共に中断していたシリーズを、河出書房新社のSFアンソロジー「NOVA」に併せて再始動した…という来歴を持つ。
基本的な構造はどれも同じで、近場では月や火星、遠くは土星の衛星エンケラドゥスなど太陽系各所の開発現場で種々の事故が起こり、渦中の人間がそれに対してどう行動するかという危機的状況下での「決断」を描いたものと言えるでしょう。「行動を起こす」事がキモであって、ではその事故や災害が克服されたのかについては書かれないのが特色であると同時に著者本人もあとがきで「余韻がない」と欠点を認めている。はっきりとは書かれていないけれど開発工事を担当している企業(あるいは公社)はひとつの同じ組織のようで、複数の作品をまたいで登場するシリーズキャラクターがだんだんと出世しているところとか、まず多くの人間が事業計画第一で行動するところ、決してそれを悪くは描かないところ、企業小説のような趣きもあります。谷甲州作品としては「航空宇宙軍史」を書いていた時期に比べて組織観や人物像が円熟したようにも思える。
ただ、それだけだと単なるガテン系中間管理職がんばりますSFにしかならないからねえ、本書掲載作品では「メデューサ複合体(コンプレックス)」が既読だったけれど*1、そのときはあまり印象に残りませんでした、正直なところ。
ところがだ。
連作短編集として単行本化の際、初期作品には大幅に手が加えられ、開発現場で起きる事故・災害の有様からかつて太陽系に存在した知的生命体の存在が浮かび上がり、その生命体は惑星や恒星系の構造を(人類には認識し得ないほどの)長期的スパンで好き勝手にいじくりまわせる高度な技術力を持っていたのではないか…という状況が示唆される、小さな伏線がいくつか埋められていきます。そして巻末に書き下ろされた新作、表題作ともなる「星を創る者たち」でこの伏線は一気に纏められ、「サイドワインダー」と名付けられた生命体による人類の進化と太陽系の構成を巡る一連の計画が明らかにされます。
なんとこれは戦争SFなのであった。
しかも前例にないほど稀有壮大な。
いくら舞台が地球外とはいえ地面の下で穴掘ったり露天で重機転がしたりと、どちらかといえば「せせこましい」作品が続く(それが悪いとは言わない)連作集が、最後の最後のに大風呂敷を広げてみせる。四半世紀前に頓挫したシリーズを見事に生まれ変わらせて見せた腕前は、日本のハードSF界の重鎮ならではの練達の筆か。いや流石です、実に驚かされました。
上司に簡潔な挨拶を済ませて死地に赴く宮園事務主任の姿には、日本社会が長年理想としてきたいわゆる「企業戦士」の鑑を見るような思いです。当の宮園主任がそもそも人間ではない辺りには、うはww社畜wwwwwとか思わなくもないのだが(w
作業の効率化を図ってシステム内に「仮想人格」が構築されている(そして災害発生時のような突発的な対応に重宝される)未来社会の設定も、実は巧妙な伏線なんだよな…