ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジョージ・R・R・マーティン「タフの方舟 1 禍つ星」

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

ここのところ消化不良気味な読書が続く中、久しぶりに心底面白いSFを読んだような。前々から名前は聞いていて、しかし手を出さずにいたものを最近になって後押しするきっかけがあったのは確かなんだけど、考えてみればかの傑作「フィーヴァードリーム」や「ワイルド・カード」の書き手なんだしなんで読まずにいたんだろうね。先日発表されてたSFマガジンの「SFスタンダード100」に選ばれるのも納得の面白さです。*1

「一千世界(サウザンド・ワールズ)」なる、人類と非人類的存在とが広範囲にわたっていくつもの植民世界を作り上げている宇宙を舞台に、古代地球帝国の遺産、環境エンジニアリング兵団*2生物戦争用胚種船「方舟」号を操る宇宙商人のハヴィランド・タフが様々な惑星を訪れ行く先々で問題解決をはかるような種類の連作短篇集。その昔RPGの「トラベラー」をやってたひとならキャラクタークラスに「商人」があったのを思い出すかも知れません。正直SFゲームってドンパチだと思ってた当時の自分には貿易ゲームの良さが良く解らなかったなーとおのれの拙さを顧みる。

既知世界の大抵の宇宙船よりはるかに巨大で比類なき武装を誇り、いくらでも凶暴な生物を即座にクローン生成できる「方舟」号を我がものにしながら当人はいたって穏健でセカイセーフクなど考えもせずに環境エンジニアとして振る舞う所はそこらの平凡なドンパチ話に飽き飽きな方に向いてるかな。日本ではビジネスを主題に据えたSFファンタジー小説ってあんまりないようなあーいや、わっちもホロは好きじゃよ?島耕作はファンタジーというよりむしろスペイシーなフィクションだと思うが。

冒頭の作品「禍つ星」で、それまでさえない宇宙商人だったタフが考古学者やなんやらの胡散臭いパーティと共に赴いた先で「方舟」号を手に入れ、以後しがない自転車操業の世界から足を洗って環境エンジニアとしての地歩を築いていく…ような展開なんだけど、主人公の(もしくは、作品の)根底にあるのは商業道徳や自由貿易の精神で、そこで重要視されるのは契約の尊重とか相互利益とか、だいたいそんなところです。短編3本収録される中、食糧問題がテーマになるのが2本あるのはなんかすごいな。

相互利益ってなんだろうね?それは決して闘争関係では無いので Win-Win ではないんだよな…と、そんな事を考えた。勧善懲悪かというと、まあそうでもないんだろうなー。信義と実利、そんなところかな。場合によっては場から降りることも実利になったりするのかな、幸か不幸かそういう話は無いんだけれど。慇懃無礼なタフのキャラクター、利害が対立しても悪人ではない周囲の人物など楽しいところです。そうでない人もいるにはいますし、大抵の場合非論理的で「愚か」であるようには描かれますが、それでも第三話「守護者」に登場するケフィラ・クェイ守護士のキャラクターは好きだぞ。

しいて問題点を上げるとすれば、連作にはロマンスの要素が欠落しています。ユーモアとウイットに富み、かつ論理的な会話で互いの価値を高揚させていく醍醐味には若造なんぞは及びもつかないというところでしょうか。なにしろ本作に登場するキャラクターたちの愛情は大抵の場合人間ではなく


猫に


向けられているのである。そんなわけで猫好きと猫SF好きにはもう、手放しで推薦する。


自分は犬派なので、そうでもないのですが。

ああそんなにごろごろにゃーにゃーするもんじゃないぞ俺は宇宙船ビーグル号がクァールにヒドイ目に遭わされてからこの方ずっとそっちの派閥には属さずにいていくら腹ばいになっても無駄だぞメルマック星人がやってきておまえをたべてしまうぞぐるぐるにゃーにゃー、ごろごろー、ごろごろー、



(;´Д`)ハァハァ

*1:前半50冊発表された内、数えてみたら本作を入れて29冊読んでいた。多いんだか少ないんだか、むしろ古い作品が多くてその点気になったけど…

*2:ホントはこの場合のEngineerは「工兵」と訳すべきなんだろうなー。「環境工兵軍団」って書くと神林SFみたいだww