- 作者: ジョンスコルジー,内田昌之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/02/07
- メディア: 新書
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銀河連邦の新任少尉ダールは、憧れの宇宙艦隊の旗艦イントレピット号に配属される。未知なる宇宙への冒険の旅のはじまりだ。しかし、彼と新人仲間はすぐに艦で奇妙なことが起きていると気づく。任務でのクルーの死亡率が異常に高いのに、艦長たち上級士官はまるで死なず、緊急時には謎の装置に頼って問題を解決しているのだ。この世界では何が起こっているのか?自分たちの命がなにものかに操られていると疑い、イントレピッド号の謎を解こうとするダールたちは、やがてとんでもない真実と直面することになる……。
表4あらすじより。巻末に掲載されている堺三保の解説によると原題の“Red Shirts”にはスラングとして「フィクションにおいて、登場してすぐに死んでしまう無個性な脇役」なる意味があるそうだ。このスラングはスタートレックの――90年代以降の新しいシリーズや近年の映画ではなく――初期のテレビシリーズ、日本で言うところの「宇宙大作戦」の各話エピソードでエンタープライズ号保安要員である「赤い制服」を着た少尉がやたらと無意味にバタバタ死んでいくところに由来していて*1、簡単に言えば本書はスタトレのパロディとしてエキストラの端役達が「なんで俺たちこんな簡単に死んじゃうんだよ!」と疑問を抱き御都合主義的な物語に反旗を翻す……ような、そんなお話。
スタートレックを知らなければ楽しめないのかと言えばそんな事は全然なく、自分もスタトレなんて全然見てませんが相変わらず巧みなスコルジー節に乗せて一種の不条理SFみたいな前半からノリノリで楽しめました。絶対死なないレギュラーキャラとあっけなく死んでしまうエキストラの格差、御都合主義的なピンチともっと御都合的な解決方法、ワンパターンな展開等々、ここでウダウダ書くより読んでもらった方が楽しいだろうなあ。一転して後半ではブラックホールを利用して過去宇宙へとタイムトラベルし*2、自分たちの窮地を脱するべくハリウッドの連続TVシリーズ制作者の元へと急ぐってそうこれメタフィクションなんですよ。自分たちがTV番組の登場人物だと気がついたフィクション上のキャラクターが自身のアイデンティティに悩む話なんだな。そこでなにが起きるかはネタバレなので避けるけど、全て綺麗に片が付いたと思わせて、最後に記される「終章」が実に実に良かった。
アイデンティティ、自分たちはどう生きるか。世に主役も端役もなく、あらゆる人にはそれぞれの人生が大きく広がっているのですと、そういうことでありましょうか。単なるスタトレのパロディ、逆「ギャラクシー・クエスト」のように見せて実は巧妙な現代小説でありました。SFファンに限らず広く読書好きに、そして書き手である人々に読まれてほしいなと思います。特に「話が単調だからそろそろここいらで誰かキャラを殺そう」などと安直に考えてしまうような人は絶対に必読です(笑)モブキャラにも人権を!彼らだって生きてるんですよ!!
しかしジョン・スコルジーの作品にはいつも新しい興奮を覚えて「老人と宇宙」*3からずっとこの人を追いかけてきて良かったなあ。あれ読むとき書店の本棚で別のミリタリーSFとどっちにするか、ちょっと迷ったんだよねー。ミリタリーSFというジャンルで「癒し」なお話を書かなければならないのは、もしかしたら現代のアメリカ社会が相当病んでることの裏返しなのかも知れないが。