- 作者: ジョン・スコルジー,内田昌之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/10/25
- メディア: 文庫
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「老人と宇宙」シリーズ第5巻。第3巻でジョン・ペリーとコンクラーベによって「鎖国」を解かれた地球と結果分断されたコロニー連合とのその後を、ペリーの同期生として第1巻に顔を出し短編「ハリーの災難」で主人公を務めた*1ハリー・ウィルスンを主役格に据えて描く。
人気を受けての続刊としてマンネリ化を避けるべくの主役交代ともうひとつ、本作ではシリーズ既刊とは全く異なる新しい手法として連作短編の型式をとっています。合計13の小さなエピソードを積み重ねていくことでひとつの大きな陰謀が…という内容もさることながら、要するにワンシーズンのTVドラマを活字的に製作するという、極めて意欲的なことをやってるのですな。エピソード1と13はそれぞれ2時間スペシャル(笑)らしく前後編に別れた内容、エピソード13では急転直下の大スペクタクルでこの先どうなる!?
セカンドシーズンに続く。
なんてとこまでアメリカのドラマ風である。あとがきによれば初出は電子出版で1エピソードごとの毎週連続(!)刊行だったそうで、スコルジーって人と「老人と宇宙」シリーズはやはり意欲的な存在で今後も注目したいですな。
ラストはいささか唐突な幕切れだけど、コロニー連合の防衛軍CDFではなく外務省直轄の外交使節の一員として「宇宙の戦士」よりは「スタートレック」的に様々な異星人と交渉を繰り広げる展開自体は非常に面白いものです。例によって「スコルジー節」とも言える軽妙な会話、アブムウェ大使やシュミット副大使といった新登場のキャラクターも威力的。巧いひとだなやっぱりな。全体を通じてコミカルな要素は強い(同じくらいハードな要素も強い)なか、エピソード7「犬の王」がとりわけお気に入りです。ちょっとだけ出てくるイチェロー族の名も無き庭園管理人が楽しいキャラなのよ(笑)
老人云々は最初の一冊以降あまり意味がないテーマとなるのだけれど「狭義のミリタリーSF」が苦手な方にもこのシリーズは勧めたい。それだけ幅広い読者層のニーズに十分応える内容だろうと思います。特に巻末にもう一本の付録として収められている「ハフト・ソルヴォーラがチュロスを食べて現代の若者と話をする」が短いながらもしみじみいいエピソードで、他愛ないお伽話のようでありながらこういうものこそ「いま」の時代に読まれてほしいSFです。
人類とは永劫に理解し得ないベムとわかりやすく英雄的に戦うなんてのよりは、ずっと。
チュロス食いたい
*1:この短編は付録として巻末に収録されている