- 作者: 神林長平
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/06/10
- メディア: 文庫
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これまで神林作品も「雪風」のシリーズとか「今宵、銀河を杯にして」などのメカ&ミリタリー風ばかり読んでいて、いわゆる観念的な物にはあまり手を出していない。十代の頃に「狐と踊れ」や「言葉使い師」に手を出してチンプンカンプン(死語)だった所為もあるのだけれど、ともかくそんな理由で本書も今更ながらの一冊ではある。が、
いまになって初めて、この時期このタイミングに初読出来たのは却ってよかったなと思われる。電子出版やクラウド化の功罪が取り沙汰される現在にこそ、著述支援マシン“ワーカム”を軸に描かれたこの連作短編集は読まれるべきではないだろうか。こんな作品を1994年に出してたんだからやっぱり神林SFって凄いよ。何気ない日常で使われる言葉ひとつの違いで、我々の世界認識は改まっていくものだ。例えば携帯電話一つにとってもそれを「スマートフォン」「ガラケー」と区別して認識することで、ほんのわずかに世界は変わる。その認識は変えてもいいし、変えなくてもいい。あなたにとってどちらがより便利な世界であるか、どちらの世界線を選択するか、日々の生活はその繰り返しで出来ている。私たちは「便利な」世の中を望んでいる。
もしもその選択権を誰かに――あるいは「何か」に――握られているとしたら…
「言壺」は実にメカ&ミリタリー要素を満載した見事な侵略SFだった。全9篇からなる連作の末尾に置かれた作品「碑文」の、句読点含めてたった6文字で成り立っている「ことば」に、全てが籠められている。そんなお話し。ワープロの学習機能や携帯電話の予測変換がまだまだ稚拙だったころの時代に、よくもまあこんな話を書けたものだな…
円城塔の解説はなかなか読ませます。「戦闘妖精・雪風」の旧版と新版の差異を指摘する箇所などゾクゾクしてきますねえ。下賤な言い方をすると神林長平が芥川賞取ってくれないかナーとか、そんなことを思った(w;