- 作者: アガサクリスティー,Agatha Christie,永井淳
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/10
- メディア: 文庫
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1970年発表、アガサ・クリスティー生誕80年を記念して刊行された最晩年の作品。正直クリスティー作品でヴェトナム戦争やネオナチに言及した物があるとは知らなかったな…
冒険好きのアマチュア主人公による巻き込まれ型のスパイ・スリラーというスタイルは昔からあるクリスティーのスタイルではあるけれど、日本だとポワロやミス・マープルの陰に隠れてそれほど人気は無い…ような。個人的にクリスティーでベストなのはセブンダイヤルズasin:4151300740なんですけどね。なぜと聞かれても答えには困るが(笑)
70年代に発表する作品としては時代の趨勢に合っていない、そのことはやはり自覚されていたようで副題に「―コミック・オペラ―」とあったり、ボリュームのあるまえがきで
この物語の本質はファンタジーです。それ以上のものだなどというつもりはありません。
と、最初からエクスキューズを入れてたりもする。正直本文内容もそんなに面白くは、ない。話は飛び飛びだし大して役割の無いキャラクターがぞろぞろ出てくる割に主人公のナイくんすこしも活躍しません。これが「ヒューマン・ファクター」*1ならあっさり毒殺されてんじゃないかってぐらいのトホホなヤツでいや勤務先が外務省でよかったな(w;
「エマ」「乙嫁物語」の森薫がマンガ形式で解説書いてます。ことによるとこの部分がいちばんの売りかも知れない。が、今はこれ「森薫拾遺集」asin:4047278246でも読めるので…で、そのマンガでもふれている通り、本作で一番良いのはナイくんの大おば、よき老婦人レディ・マチルダのキャラクターだと思います。森薫ってひとは物事の長所を見つけ出すのが巧いのでしょうね。
そしてもうひとりシャルロッテ・フォン・ヴァルトザウセン女伯爵のキャラもなかなかスゴイぞ、オーストリアの山中で城館に引きこもって自称「若きジークフリート」以下美青年をコスプレで侍らして温いナチズム思想をまくしたてる因業婆さんでレディ・マチルダと会話する場面は絶品www
全体として若い世代の熱狂、時代に変化に危惧を抱いているのは良くわかる、であれば素直に主人公を「老人」に据えて書かれた方がもっと自然ではないかなあ。どうもね、誤読をしてたら申し訳ないのだけれど構成が破綻してるように見えるんだよねこの作品。どこがどうとはネタバレになるんで言えないけれどね。
「象は忘れない」*2と並んで面白さよりも存在それ自体に価値があるような気はします。