ファンタジー……なのかなあ。まあファンタジックではあるのだが、幻想・怪奇趣味があれば琴線には触れると思いますが、例えば「霧に橋を架ける」とか「地球の中心までトンネルを掘る」とか、あの辺が好きな人なら合うと思う。
ジャンルよりは作風・雰囲気かな。もっとも、このブログのジャンル分けは適当でいい加減なものなんだけど(笑)
「奇妙な味わい」小説というかうーん、どの作品も扉絵にちょっと不気味な(しかしコミカルな)イラストが配されていて、それも相まってガロ風というか「アフタヌーン四季賞に応募してくるようなマンガ」みたいな印象を受ける。不条理でダークで、どこがブギーでそれでもユーモアが感じられる何か。「地下をゆく舟」「蝶の修理屋」の2本がとりわけ良いと感じる。
この2本のあらすじを書こうかと思ったけれどいざグダグダ文章にしてしまうとちっとも魅力が伝わらない。前者は、地下室に閉じ込められた舟(とその持ち主)が自由に地底の河川を行き来出来るようになる話だし、後者は「蝶の修理屋(レビドクター)の手術道具」を手に入れた少年が美術作品に加工されたたくさんの蝶の標本を修理し自由に解き放つお話し。この2つを見ると「自由」はキーワードのようだけれど、全体としては孤独な魂が充足感を得るような話が多かったように思う。全部が全部そうではないんだけどね。
訳者あとがき・文庫版解説ではそれぞれ「境界線」「解放感」などの言葉をキーにして10本の作品を説いていく。条理と不条理の境界線、不自由から自由への解放。どこかグロテスクな世界と人物、哀れな愛おしさ。そんなところかな……。
あとがきで「こうしてイギリスから熊がいなくなりました」の作者なのだとあってなるほどなーと。たしかにあれと似た雰囲気は感じる。
なんか、「勧めづらいんだけどオススメ」という謎カテゴリーな作品ではあり。